星を紡ぐ少女

第10話

「えぇ！　投げたー！？」

「フゥ……大丈夫でしたか？」

「いや、フゥじゃなくてですね……」

「大丈夫です。ちゃんと加減及び着地地点は計算していますから」

「なるほど、じゃあ安心……じゃないですよ！　何なんですか今の人！」

「……今まで散々危惧してきた事が、今になって露呈しているのです」

　宗玄さんはそれだけ言うと、投げ飛ばした男性がいる茂みの方へと歩き出した。

　多分、宗玄さんの言う『危惧してきた事』とは『俺たちが瞬の母方の実家の人間から何かされる事』を言っている……それは分かる。

「あっ、あの。露呈している……とは？」

「言葉通りの意味です。今のあなた様の様にコンタクトを取りに来ているのです」

「いっ、今のはコンタクトと言うか……」

　ただのホラーである。

「本当は声をかけるつもりだったと推察出来ますが……」

「はぁ、なるほ……。え、じゃあ俺に声をかける前に殴ったんですか？」

　いや、それを聞いたとしても、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。

「聡……様からご提供されました資料の中にこの男性の顔には見まして。この男性に変装の『力』と呼ばれるモノもなけば、スキルもない事は知っておれました」

「いや、それにしたって……」

　いくらなんでも出会い頭に一発というのはどうだろうか。相手が一般人なら警察沙汰待ったなしだ。

「しかし、この男性には『力』というモノがあるのは承知しています。しかも、話をすればするほど抗えなくなる……というモノが」

「えと……つっ、つまり『人を操る』みたいなモノを『力』として持っている……と？」

　しかも、そういった『会話』が絡むモノなら会話を終わらせない方法くらいありそうだ。

「ですから、刹那様に声をかける前に……潰しました」

「あっ、ああー……。ありがとうございます？」

　表現としてはかなり物騒だが、何はともあれ宗玄さんのお陰で俺は窮地を脱したワケだ。

「どうやら、彼らはかなり焦っている様です。今の彼らなら力ずくの可能性も否定出来ません。ですので、想様はあえて瞬様に電話をかけたのです」

「それはつまり……」

　俺がそう言うと、宗玄さんは首を縦に振った。

　つまり、瞬の電話の内容を聞いた俺たちが次にどんな行動をするのか……というのも『読まれていた』というワケだ。

　なるほど、だからワザと俺の名前を出して「聞いてみるといいよ」なんて言ったのか。

　瞬が俺たちの前で話をしやすくするために……。

「はぁ、してやられたワケだ。それで、瞬と龍紀のところにも誰かボディガードの様に付いているわけですよね？」

「……はい。瞬様は考えるまでもありませんが……龍紀様には僭越ながら……」

「？　どうされました？」

「いえ、お気になさらず。とりあえず、この方は路上で寝ていた……と警察の方に任せましょう。この辺りはお昼から開いている居酒屋も多いですから」

　なぜか突然そう言って立ち上がった宗玄さんの後を、俺も付いていくことにした。