第15話


「なっ、なんですか。いきなり笑い出して……」

「いやいや、もしかして分かっていないのかなぁ……とか思っていたからさ。安心したよ」


 なぜか涙が出るほど笑っていた兄さんは、そう言って涙をぬぐった。


「まぁ、そうだね。確かに、僕がここに来たのはちゃんと『理由』があるからだ」

「それは一体?」


「ああ、実は……瞬に言った場所に星川って子はいない」

「はっ?」


「だから、僕と瞬はその星川って子がいる場所に行く。そして、宗玄さんたちは当初の予定通りに『孤児院』に行ってもらう」

「……それはつまり、その『孤児院』にも何かあるという事なんですね」


 そうでなければ、最初に『孤児院に行こう』と思わせるような事を言う必要がない。


「まぁね。後の話は車の中で話すよ。とりあえず乗って」

「分かりました」


 こうして、僕は兄さんが運転する車に乗った。


■  ■  ■  ■  ■


「……」

「……」


 龍紀と千鶴は、無言のまま二人同じバスに乗って揺られていた。他の乗客は……俺たち以外に誰もいない。


 しかし、千鶴は警戒心むき出しで無言ではあるモノの色々な方向を見ている。事情を知っている龍紀は、特に何も感じない。


 龍紀はむしろ「警戒しているんだな」と思うくらいだった。


 だが、事情を知らない人間からすれば『落ち着きのない人間』と思われかねないくらい落ち着きがない。


「千鶴さん」

「……ザッと見渡しましたが、なるほど。ここは霊たちが好みそうな場所ですね。霧も濃いめです」


「それはつまり、何かあっても分かりにくい……と」

「そういう事になりますね」


 刹那たちが言うとおり、本当にここは『穴場スポット』なのだろう。それならば、ここまで人がいないというのも、説明がつく。


 まぁ、そもそも今の時間がちょうどお昼で天体観測をする様な時間でもないというところもあるが……。


 それに、ここは自転車や自動車で来れなくはない。だが、それにはかなりの体力が必要となりそうだ。


「……ん?」


 そういえば、瞬は「自転車で来た」と言っていた。


 しかし、瞬の体育の成績は男子の平均値だったはずだ。それだけに、俺の頭に疑問が残る。


 なぜなら、ここ最近で言うなら『体力測定』で出た数値は、平均値は平均値でも、ぴったりドンピシャだったのだ。


 成績を瞬から奪ってきた刹那に見せられたその時はあまり気にしていなかったが、今となってはおかしすぎる。


 普通、あって種目別で一二回いちにかいある程度ではないだろうか。


「…………」


 ――つまり、瞬は狙って平均値にした……という事なのだろうか。


 そうなると……彼の運動能力は、とんでもないという事になる。自分自身で調整が出来るのだから。


 しかし、コレはあくまで推察の域を出ない……と、考え始めたところで、バスは目的地付近のバス停に止まった。


「運転手の人は、普通の方でした」

「……だろうな」


 バスを降り千鶴は龍紀にそう尋ねた。


「しかし、想様の話を聞く限り、お母様のご実家はかなりのお金持ち。私程度の『常識』が通用するとは――」


 そう千鶴がそう言ったタイミングで突然龍紀たちの横に車に止まり『ドア』が開き、龍紀の隣にいた千鶴を思いっきり蹴飛ばした。

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