第2話
――俺の両親。
思い返してみると、父さんは黒髪で赤い目。母さんは白っぽい髪をした長髪で青色の目をしていた。
端から見ていれば漫画やゲームのキャラクターとして出てきそうな容姿とも言える両親。
でも、父さんは赤い目ではあるものの日本人には違いなかったし、母さんも先祖代々の遺伝的な影響で全体的な色素が薄いだけの純日本人だった。
性格は何でも出来る。
そして、他の人に何かをしてもらうのが苦手……というより頼み方が分からないほどの口下手だった。
それに両親は二人共なんだかんだで日本人っぽくない目立つ容姿だった事もあって昔から色々と苦労が絶えず、人目につくことを嫌がっていた。
だから、実は俺たち家族は厳密に言うと、俺が今いるこの家から少し離れた所の別の家に住んでいた。
「……」
しかし、兄さんが『人の心を読める』という事が分かってから俺たちの生活は徐々に変わっていった……。
でも、は父さんも『少し他の人が何を考えているのか分かる事』があったらしいが、父さんの場合は『たまに』というだけで兄さんほど明確には分からなかった。
しかし、兄さんの場合はかなり的確に読み取ることが出来た。
今になって思い返してみれば、兄さんは父さんの『特徴』を色濃く……強く引き継いだような感じだったのだろう……。
そして、それにいち早く気がつき喜んだのは……実は父さんではなく、父さんの父さん……つまり祖父だった。
兄さんがこの家に住んでいるってことは結局、じいさんは亡くなってしまったのだろう……。
今は兄さんが業務を継いでいるが『龍ヶ崎家』は元々、衣服のデザインだけではなくアクセサリーのデザインまで行っている……いわゆる『自社ブランド』を展開している。
衣服は基本的にオーダーメイドで、アクセサリーも基本的に一点物……。
お客のニーズには出来るだけ答えるようにはしているものの、それを作るには当然それ相応に値段が張る。
ただ、一応『自社ブランド』とは言っているものの……実はブランドの名前に『龍ヶ崎』が入っていない為、それを作っているのが『龍ヶ崎家』だと知る人はあまりいない。
でも、それは祖父の考えで「名前ではなく商品で売る」という……プライドの……いや、根っからの商売人だったからこそだろう。
ただまぁ、何にしろ兄さんの『力』とも呼べる『特徴』は商売人にしてみれば『嬉しい』の一言に尽きるだろう。
なぜならお客が「何が欲しいのか」「どういったモノがいいのか」などその人が望んでいる物が分かるのだ。
それが分かったらさらに色々提案するのも上手くいく……。
つまり、話がスムーズに進む。もちろん、その話をするにもそれなりのスキルがいる。
でも、それは話上手な人にまかせればいいだけの話で、祖父として「世間が何を欲しているのか……」それが分かるという事が重要だったらしい。
実際、自分の頭の中で「こういうモノが欲しい!」と思ってもなかなか伝わらなくて、全然違うものを勧められることがある。
昔は分からなかったが、今はそういう体験をする様になってよく分かる。それに、言葉下手な人間にとっては嬉しい話でもある。
「……」
突然、宗玄さんは歩みを止め俺の方を振り返った。
「それでは、中でお待ちください」
そう言って宗玄さんは扉を開き、中に入るよう促した。
「あっ、はい……」
俺は促されるまま部屋の中へと足を踏み入れた……。
『……』
そして、俺の横にいた『彼』も俺の陰に隠れて何気なく平然と入ったのは『みえない』宗玄さんには気づかれなかった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やぁ! 体調の方はもう大丈夫なようだね?」
「はい、お騒がせしました」
俺はそそくさと手招きをしている兄さんと対になるように俺は座った。……というよりもかなりデカイ机のわりに置いてある椅子は二つしかない。
「……」
わざわざ兄さんの横に座る必要もない上に移動をするのも……正直、面倒である。
「……宗玄さん、料理するんですね」
俺は厨房の方へと消えた宗玄さんを見ながら言った。実は、宗玄さんの料理を食べたことはない。
でも……なんとなく、どういった料理が出てくるか分かる気がしていた。それこそ……とんでもない『男の料理』が……。
宗玄さんは、見た目の『物腰柔らかい初老の執事』とは裏腹のかなりの『豪快』な性格である。それは車の運転で経験済みだ。
昔はそこまで気にならなかったが、今となっては色々と引っ掛かってしまう。そういえば昔、雪かきの時も屋根から落ちたこともあったな……などと実家に帰って幼き頃の記憶が呼び起こされるほどだ。
「あっ! 大丈夫だよ。ちゃんと料理出来るから瞬が思っている様な料理は出ないよ」
「……そうですか」
また、読まれた……。
祖父により兄さんが部屋に閉じ込められたのは、兄さんが小学生の頃だ。
しかし、部屋に閉じ込められていたからと言って学校に行っていなかった訳ではない。
一応学校には行っていた。ただ、家から学校の間はずっと車で移動、それ以外の時間を『白い部屋』で過ごす様な毎日を人知れず送っていた。
「………………」
「ん? どうした?」
俺があまりにも兄さんの顔を凝視していることにさすがに気づいた兄さんは不思議そうに尋ねてきた。
「もしかして口に合わなかった?」
「いっ、いえ……」
決して料理が美味しくない訳ではない……むしろ美味しかった。
最初に『男の料理』の様な豪快なモノが出てくると思ったが、実際に運ばれて来た料理はとても『家庭的な料理』でいわゆる『母の味』を連想させるモノだった。
これは、宗玄さんに謝らないと……そう感じる程に美味しかったのだが……。
「……何でもありません」
俺はそう言ってすぐに目を逸らした。
「? そうか?」
「……………」
俺はもう一度チラッと兄さんの方を見ると、美味しそうに……という風に食べている訳でもなく兄さんはただ黙々とナイフとフォークを動かして自分の口へと運んでいる。
兄さんの性格からして「食事中もずっと話をするのでは?」と思っていた俺は、そんな兄さんの姿に少なからず驚いていた。
でも、それ以上に驚いたのは……。
「……」
兄さんの横にある皿の山だ……。
「……」
ザッと見ただけでも十五皿は超えているように感じる。
コース料理であればそれなりの皿の量は必要だが、今日のメニューは兄さんの好物の『ハンバーグ』と『サラダ』と『ライス』のはずだ。
この時点で皿は三つ必要になるだろう。
しかし、兄さんは『ハンバーグ』だけではなくサラダもライスも偏りが無いように食べていた。
その辺り兄さんらしい……が、どう見ても食べ過ぎである。
そういえば……母さんもかなりの大食いだった。しかし、食べることと同じように料理を作ることも好きだった。
本人曰く「大量の料理を作ることが苦ではなく楽しい」と言いながら毎日色々なモノを作っていたのを思い出す。
多分、母さんは『料理を作る事』を一つのストレス解消にしていたのだろう。そして、当然食べることもストレス解消の一環を担っていた。
だが、その時は何とも思わなかったが今となっては……あれだけ食べていたにも関わらずなぜ病院で「痩せすぎです!」と注意を受けていたのか……。
「……」
それが俺にとっては今でも謎で仕方がないのだが……本当にどうしてだっただろうか……。
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