第3話


 しかし、下級生が上級生に声をかける……しかも、面識は一切なし。そうなると、色々と知りたくなってしまうのは……人間のさがというヤツだろう。


「……なんで俺たちなんだ? 部活の先輩とかいるだろ」

「あっ、俺。部活入ってなくて」


 ふむ、なるほど……。


「へぇ、そんじゃ帰宅部?」

「はい、アルバイトはしているんですけど」


 じゃあ、バイト先の……と言っても、さっきの「茶化されそう」という答えが返ってくるだけだ。


 どうやら、この男子生徒にとっては『面識がない』が一番重要だったのかも知れない。


 それに、俺たちはあの広告も見ているし、事情も知っているからなおさら都合がよかったのだろう。


「それにしても『女子』に渡すモノか……」

「え?」


 なぜか男子生徒は驚きの表情を浮かべている。


「ん? 何をそんなに驚いているんだ?ジュエリー店の広告を見れば、大体こういう反応になるだろ」

「そうそう」


 俺たちの言葉に男子生徒は「そっ、そうですよね」と言って照れ笑いをした。


「……」


 どうやら本当に気づかれないと思っていたようだ。


「……」


 ――そこら辺は甘い。


 他の人たちはどうかは知らないが、それを知ったところで俺たちは冷やかさない。冷やかすにしても、刹那だってある程度気心知れた相手を選ぶ。


「そういえば君の名前は? 聞いてなかったよね?」

「あっ、俺は『四宮しのみやたける』と言います。クラスはB組で……」


「B? Bって確か……」

「進学クラスになる……が、許可があればアルバイトも出来る」


「そっ、そうだっけ?」

「生徒手帳にもちゃんと書いてあっただろ」


「あはは、って……ハッ! 瞬もしかして生徒手帳の中身全部……」

「覚えているわけないだろ。要所要所、自分に関わりがありそうなところだけだ」


 俺も高校進学した時点でアルバイト……をする事になるかも知れない状況だったから知っていただけで、何も全ては覚えていない。


 全く、何が「ハッ!」だ。自分が関係しそうなところくらいは目を通しておいて欲しいモノだ。


 ……まぁ、目を通しても忘れてしまったら意味はないのだが。


「それはそれとして、許可をもらってバイトをしているって事は、かなり家庭が厳しいんだろ? だったら、他のモノを……って、それを考えるって話だったな」

「そうだよ」

「はい……。俺一人じゃ、どうしても難しくて」


 ……なるほど。プレゼントは送りたいが予算的に難しいというワケか。それに、自分の知識だけではどうにもならないときた。


 さて、どうしたものか……。


「……」

「……」


「あっ」


 そろそろ本腰を入れて考えようとした矢先、チャイムが鳴った。


「仕方ない。とりあえず、話は……」

「あっ、今日はバイトがないので空いています。昼休みは……ちょっと用事がありまして」


「うん、分かった。それじゃ、後は放課後に」

「はい」


 俺たちはそう言って、急いで自分たちの教室がある階段を上り、健は俺たちと話していた場所の近くにあった階段を下っていった……。


「ん?」


 その姿を俺は横目でチラッと見たのだが……やはり『何かの気配』を感じっていた。

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