第9話


「はぁはぁ……」

「はぁ……」


 雨が降る中……そして、慣れない土地と歩き慣れていない地面……。


「チッ……!」


 最悪のコンディションの中でも俺たちは森の中を必死に走っていた。


「クソッ!」


 しかし、どんなに必死に走っても『黒い塊』は俺たちの後をついて……いや、むしろその距離はどんどん詰まっている様に感じられるほどだ。


 そう、このままでは……捕まる恐怖を感じながらも俺たちはそんな不安を振り払うように走り続けていた――――が。


「えっ!?」

「なっ!?」


 俺が一瞬視線を外した瞬間、刹那が俺の視界から消えた……と思った。


「っ!」


 しかし、それは消えたのではなく、転んでしまったのだと気づいた時には……。


「おいっ!」


 刹那と『悪霊』との距離は手が届くほどにまで近づいていた。


「刹那っ!!」


 その時、俺は初めて刹那を名前で呼んだ。


「っ!」


 刹那も名前呼びに気づき、そして後ろから近づいてくる『悪霊の存在』に気づいたが……なぜかその時、刹那は俺に向かって笑いかけた。


「っ!」


 その笑顔を見た瞬間、俺は必死に刹那の元へと走った。


 だって、その笑顔が俺には……『もうダメだ』みたいな表情に見えてならなかったから……だから、俺は必死に……必死に走った――――。


「せつなー!」


 それでも――


「チッ!」


 俺は走りながら舌打ちをした。なぜなら『このままでは……間に合わない!』という気持ちが俺の頭をよぎったのだ。


 しかし――――


「……おーい! そこのガキ、よけろー!」

「!?」


 この緊迫した状況には合わない間伸び下声が突然俺の後ろから聞こえ、俺はとりあえずすぐその場でしゃがみ、刹那は……転んでいたのでしゃがむ必要がなかった。


 そして、その直後――――。


「うわっ!」

「ッ!」


 一瞬、大きな『何か』が俺と刹那の間を通った……と思ったら、黒い塊に向かってその『何か』が……飛び、そして直撃した。


「えっ、今の……」


 俺はその『何か』が飛んできた方向を見ると……。


 その方向には一人の青年が立っており、俺たちの方へと向かって歩き、転んでいた刹那には別の青年が手を貸して立ち上がっていたところだった。


「刹那……。大丈夫か?」

「あっ、うん……なっ、なんとか」


 刹那はその『何か』が『大きな岩』だと分かると、苦笑いを浮かべながら俺の元へと近寄り、俺の問いかけに言葉少なめに答えた。


 ちなみに、俺たちを助けて……というか『岩』を投げてきた青年たちは岩の周辺でなにやら話し込んでいる様だ。


「……」

「ん? どうしたか?」


 そんな俺の視線に気がついたのか、そう尋ねてきた……が、近づいてきて分かったのだが……とにかくでかい。


 ――それが第一印象だった。


 確かに小学生から見れば身長が高いのは当たり前だろうが、それを考慮しなくても『でかい』という事がすぐに分かるほどだ。


「……」


 だからなのか、刹那は目の前にいる大きな青年に怯えている様に見える。


「ッ!」

「おい……。あんまりガキをビビらせんなよ」


 そう言いながら、もう一人の青年がその長身の頭を叩いた。


「いってー! 何するんだよ!!」

「……お前がそいつらをビビらせるのが悪い……」


 軽く背伸びをしながらその人を叩いた人は『長身青年』と比べて身長は低いものの……十七、八歳に見える見た目に反して落ち着いた雰囲気を醸し出しているように感じる。


「……」


 しかし、それ以上に俺はこの長身青年が『ある人物』に似ていることに気がついた――。

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