第8話
「あの、一体何が……」
人だかりの中に、いつも病室に来てくれる看護師がおり、刹那はすぐに話しかけた。
「あっ、私たちも今駆けつけたばかりで詳しい事は知らないのだけれど、何か突然大きな音が聞こえたって……」
「大きな音?」
俺も最初は黙って看護師の言葉に耳を傾けていたが、人だかりの中から見えた『ある人物』姿に、思わず刹那の肩を叩いた。
「刹那。あれ、龍紀じゃないか?」
「え」
よく見ると、龍紀は『人だかりの中』ではなく『人だかりの前』にいた。つまり、龍紀が看護師の言う「大きな音をたてた人」という事になる。
「でも、なんで龍紀が……こんな中庭なんて通らなくても、普通に通路を通った方が早いのに」
「…………」
そう、ここは基本的に入院している人が散歩などをするために使っている。それ以外でここを通ることはない。龍紀もそれは知っているはず……。
「まぁ、それは『本人』に直接聞くか」
「?」
「あっ、大丈夫です。ただ擦っただけで血は出ていませんので」
「いや、でも……もしも何かあったら」
「本当に大丈夫です。ありがとうございます。ただ転んだだけですから」
心配そうに声をかける医師や看護師に対し、丁寧に治療を断りながら俺たちに近づいて来た。
「ただ転んだだけ……で、これだけの人を集められるんだから、すごいな」
「あっ、瞬」
「血は出てなくても、手当ては受けることをお薦めするよ?」
「……刹那」
龍紀は俺たちの姿を見るとすぐに、小さくため息をついた。多分『降参』を意味しているのだろう。
まぁ、龍紀が『人に迷惑わかけたくない』とか『人に心配をかけたくない』という気持ちで断っていたのだろう。
それは簡単に分かったので、特に怒るつもりもない。
「……分かった。二人がそこまでいうのなら」
龍紀はそう言って、医師と看護師に「血は出ていないのですが……」と本人が「擦った」という部分を見せていた。
その時には、さっきまでいた人たちは解散していた。特に問題ないと、各々判断したのだろう。
「……確かに、血は出ていないけど地面で擦った様な感じだね」
「ああ。でも、それでさっきまでいたような人だかりが出来るほどの怪我だとは思えない」
「それに、どうして龍紀が『ここ』で怪我をしたのかも、分からない」
「ああ」
明らかに『おかしい』という事は分かるが、どうして『そうなった』という事が分からない。
「それに、なんか焦っていたよね」
「……刹那も思ったか?」
俺と刹那はコソッと話をしていたが、龍紀はそのまま医師たちに連れられて行った。手当てをするためだろう。
「まぁ、龍紀の性格を考えると『人の手を煩わせたくない』のかなとも思ったけど、あれはどちらかというと違うような……」
「……それも含めて本人に聞かないとな。何にしても、あんまりいい予感がしないな」
俺がそう言うと、刹那も笑って「ははは、俺も」と言った。
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