第9話
「……ありがとうございました」
そう言って部屋を出る。チラッと時計を見ると、思ったよりも時間がかかってしまった様だ。
ただ、手当てをしてもらっている間も、時計を何度も見てしまい、看護師さんを慌てさせてしまったのは、正直申し訳ないと思っている。
でも、俺は急いでいる。
俺がこうして手当てをしている間も、事態は刻一刻と進んでいるはずだ。ただ、それが『いい方向』なのか『悪い方向』に進んでいるのかまでは分からない。
「……よう、龍紀」
「ヤッホー」
「……瞬。刹那」
走り……まではしていないものの、病室を出た瞬間。出来るだけ速く行こうと歩いていたところで、友人の二人が待っていた。
「どこに行くつもりかな? いや、そもそもなんで俺の名前を言う前に少し間があったのかな、龍紀」
「……」
そう言って笑っている刹那の顔は、少し怖い。
「まぁそう言うな。そもそも、龍紀が俺たちの言葉を聞いて渋々……っていう時点で、大方『何かに巻き込まれている』んじゃないか?」
「……」
瞬はそう言って、怖い笑顔を俺に向けている刹那をたしなめた。
「まぁそうだね」
「……」
瞬の言葉に、刹那はすぐに表情を元に戻した。
「しかも、それは『普通の人には分からない類』じゃない?」
「!」
その言葉に、俺が驚いた表情を見せていると、刹那は「おっ、当たった」という表情を見せた。
「……やはりそうか。それなら、俺たちも一緒に龍紀が行こうとしている場所に行くべきだな」
「そうだね。友達なのに『関係ない』はなしだよ」
「…………」
実は、瞬も刹那も一緒に来てもらおうと思っていたのだ。それに、刹那も『見える人間』だから、いてくれた方が俺としては助かる。
「……分かった」
ただ、この二人が俺の手当が終わるのを待っていたのは何となく分かっていた。
この二人なら『瞬が入院している病室で大人しく待つ』なんてしないだろうと思っていたからだ。
「ところで、瞬」
「ん?」
早速、行動しようと二人が座っていた椅子から立った時、俺は瞬に声をかけた。
「瞬の知り合いで、俺たちよりも少し年下で……えと名前は、何だったかな確か『うざき』だったか卯崎……」
「……その後に続く名前は、ひょっとして『千鶴』か?」
俺が言う前に、瞬はそう答えた。
「ああ、そうだった。確か、古風な感じの名前だとは思っていたんだが」
「どんな覚え方しているのさ。そもそも『千鶴』って名前もそこまで古風じゃないよ」
「あくまで俺の感覚の話だ。で、その名前を瞬な伝えて欲しいって言われたけど、瞬は……」
俺が「その人を何か知っているか?」と聞く前に、瞬は俺に「そいつと最後に会った場所はどこだ」と聞いてきた。
その表情は、明らかに焦っている。それこそ、さっきの俺を見ているかのようだった。
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