第8話


「実は、その少女がほとんどのカードを集め終わっている」


 そんな兄さんを見かねてか、実苑さんが兄さんの言葉を引き継いだ。


「え」

「でも、カードはやり方に反発していたはず……」


 そう、俺の記憶が正しければ『カードたち』の中には、現状を理解した上でコレを成し遂げようとしている人たちに嫌悪感を抱いていたはずだ。


「うん、そうなんだけど……」

「カードたちも言ってしまえば『意思の塊』の様なモノだから、多分。彼女の気持ちを案じたのだろう」


 彼ら『カード』にも『自我』というモノがある。それはもちろん『感情』も含まれるだろう。


 そりゃあ、彼らだって『由来を元にした』とはいえ、決して『無機質』な『物』ではない。


「………」


 ――だから手を貸した……というワケなのだろう。


「でも、現状はカードを集めきらないと話が進まない。だからこそ、彼らも全てを分かった上で手を貸している可能性もある」

「うーん。でも、失敗か成功しかないんですよね?」


「うん、そうだよ。だから、そもそもこんな『儀式』に人間が関わっちゃ……いや、手を出しちゃいけなかったんだよ」

「しかし、それは今言っても仕方がありません。すでに起きてしまっているのですから」


 そう、引き金に手をかけたとしても、思い止まれば、それでよかったのだ。でも、引き金を引いたのは……他でもない彼らと空だ。


 たとえ、空にその気はなかったとしても、彼女も加担してしまったのは事実である。


 それに、彼らに母さんの『記憶操作』の力が渡ってしまっては、どう使われるか分かったモノではない。


「それにしても。成功と失敗のどちらかしかない……という事らしいですけど、失敗したらどうなるんですか?」

「ん? べつに? 何も起きないよ?」


「……はっ?」

「え」

「…………」


「だから、何も起きないんだよ」


 兄さんは俺の質問に「何を言っているの?」と言いたそうな表情だったが、それは俺がしたい気分である。


「いやいや、普通。失敗……ってなったら、何か起きるモノじゃないですか。例えば……記憶が飛ぶとか」

「例えば……で、真っ先に『記憶関連』が出てくるのって、やっぱり今までの会話に引っ張られた?」


「……茶化さないで下さい」

「うーん、でも『何も起きない』つまり『変化なし』も『失敗』の一つだよね」


「?」

「まぁ……そうですね」


 確かに、目に見える『変化』も当然『成功』もしくは『失敗』の判断の一つだろう。しかし、目に見えないモノも『変化』の一つだ。


「まぁ、要は失敗させる事が重要なんだ」


「失敗させる……」

「なるほど。失敗か成功かのどちらかしかないのであれば……」

「失敗させる方がいい……か」


 当然、成功させるのは論外だ。


 しかし、二択しかないのであれば、片方がダメならその片方しか使えない。それに『何も変化がない』のであれば、その方がいいに決まっている。


「でも、失敗させるにしても何にしても……」

「うん。どのみち、彼女とは対峙しないといけないね」


「…………」


 そう言って、兄さんと実苑さんは俺を見つめた。

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