第3話
「……」
「なんで、君がここにいるのかな?」
確か俺の記憶が正しければ、新幹線で偶然居合わせた後、刹那の母とこの『空』とは別れたはずだ。
「……」
だから、こんなところに空がいるのは正直、不思議な気分である。
「……迷った」
「……なぜ? 確か、君は刹那の母親と一緒にいたはず……」
そして、俺は刹那からさっき聞いていた『母親の予定』を思い出した。
「……」
別に俺が自分から聞いた訳じゃない。でも、刹那が自分から言っていたので一応相づちを打ってはいたけど……。
「……」
今、俺の目の前にいる少女の名前は星川空で、その時に聞いた刹那の話では確か、聞いていたことに変更が無ければ仕事場にあいさつをしに行くと言っていた……はずだ。
「仕事場に全く知らない人を連れて行くこと……ないと思う」
「いや、どこかで待ち合わせくらい……」
ようやくそこで気がついた。
――つまり『ここ』がその刹那の母親との待ち合わせの場所に指定されたのだろう。
「……」
確かに、刹那から聞いていた『仕事場』からここまではそう遠くいない。それに、地図にも載っている結構メジャーな場所を『待ち合わせ場所にする』という事は間違ってはいないものの……。
「……」
それで結果的に迷ってしまうのは……文字通り『本末転倒』だな……と思ってしまった。
「とっ……とりあえず、連絡を……」
「ここ、電波無い。それに、公衆電話も……なかった」
「えっ?」
「うん」
そう言われて俺はこの時初めて携帯を見た。
「あっ……」
確かに携帯電話は『圏外』の表示があり……あたりを簡単にグルッと見渡しても……周辺に公衆電話もなさそうだ。
「ここら辺にマップとかは……?」
「ううん……。見てない」
俺の質問に空は残念そうな表情で……なんて事はなく、無表情で首を左右に振って否定した。
ただしかし、俺は来る途中に『マップ』を見た覚えがある。
だから、もしかしたら……いや、それ以上に俺の聞き方が悪かったのかも知れない。だから、空も分からなかったからかも知れない。
「じゃあ、『看板』は……見た?」
「それは見た……」
空は若干食いぎみで即答した。
「……」
「いや『マップ』も『看板』もそう変わらないだろ」
「……違う。『地図』と矢印しか書いてない『看板』は別物」
「そっ……そうか」
そう改まって強い言い方をされると「空の言い分も分からなくも……ない……」と俺は空の回答に肯定するしかなかった。
「じゃあ、とりあえずそこまで戻るか……」
「うん……」
そう言って俺たちはその『道順の書かれた看板』まで戻ることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます