第4話


「おい……」

「ん? どうした? 瞬」


 不思議そうな表情で振り返った刹那に俺は周りに聞こえないように刹那を手招きしながら呼んだ。


「龍紀……いなくなってねぇか?」

「えっ!?」


 わざわざ刹那を呼んで小声で話したこと自体を台無しにされてしまうほどとの大声で刹那は驚いた。


「うわっ! バカっ!」

「いっ!」


 その大声に驚きと共に俺は反射的に頭を叩いた。


「つっ! なっ、何だよぉ……」


 刹那は叩かれた部分をさすっている。


「……」


 若干、目に涙が浮かんでいるようになっている事は男の尊厳の為にワザと黙っておくことにした。


「はぁ」

「えっ、なんで呆れられているの? 俺」


「いきなり俺の心遣いを無駄にしようとしたからな」

「はっ? …………心遣い?」


 何のことだか分からない……といった顔で刹那はキョトンとしている。


「刹那……。よぉく考えろ」


 そう言って俺は誰にも聞こえないように刹那の方を組んだ。


「なっ、何……?」

「修学旅行先で行方不明はマズイ……っていうのは俺たちがよぉく知っているだろ?」


「まっ、まぁ……昔それに似た経験をしている身としては……」


 いくら自分の興味のある事以外物覚えの悪い刹那でもさすがについ最近、その話したのだから覚えているだろう。


「しかも、いなくなったのはあの龍紀だぞ?」

「あっ……」


 そこで刹那は事の重大性を理解した様だ。


「……」

「……」


 あの『生徒の模範』ともいえる『生徒会長がいなくなった……』となれば、自然と教師たちの耳にも入るだろう。


 それだけではあればいいのだが……多分、それだけでは終わらず色々な噂や昔の話も出てきてしまうかも知れない。


 しかも、そういったたぐいの話はなぜかすぐに周知される。


 そうなると……今後の生徒会の仕事もやりにくくなる可能性は……なきにしもあらずだろう。


「でっ……でも、龍紀だったらすぐに合流すると思うけど……。その電話とか」


「それは俺も思っている。だから下手に動かずに待とうと思う」

「えっ……じゃあ」


 刹那は「なんで今、この話をしたんだ?」と言いたげな表情で俺を見た。


「状況を理解していれば……。まぁ、言い方は悪いが、なんとでも言える……。とりあえず、出来る限りごまかすぞ」

「うっ……うん」


 俺の提案に刹那も首を縦に振った。


「でもまぁ……これで来なかったたら…………一緒に怒られてやるか」

「えっ」


 刹那はその言葉に驚きを隠せなかったようだ。しかし、そんな刹那を見ながら俺は小さく笑った。


 一方、その頃――――――。


「……おかしい」


 俺は来た道をただ戻って……いたはずだった


「あの……」

「??」


「合っています……よね?」

「合っている……はず……」


 空の不安そうな声に、俺は自信を持って『大丈夫』という言葉が言えず、思わず言葉を濁した。


 それはなぜか……実は、どんなに歩いても歩いても目的の場所には辿りついていなかったのだ……。


「……なぜ辿りつかないんだ?」

「そっ、それは……分からない」


 思わずそんな言葉漏れてしまい、空の不安を煽った形になってしまった。でも、そんな情けない言葉を空は困惑しながらも返答してくれた。


「……」

「……」


 それから歩き続けていたが、それでも俺たちは目的地にたどり着けない。


 いや、これはむしろ……。


「元の場所に戻ってきている?」

「ああ……。さっきも、この光景は見たな」


 そう言って俺は近くにあった木を手に取り揺らしてみた。


 そこには、近くにある『おみくじ』が大量に結ばれており、その隣には『絵馬』もたくさん並んでいる。


 ただこの景色は……ついさっきも見たせいでどうしても既視感を覚えてしまう。


「……という事は」

「戻ってきている……ね」


 そう言った後、俺たちは顔を見合わせた。


「……」

「……」


 そして、思い沈黙が流れた――――。

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