第9話
本当に一番辛いのは……その中にいた当事者……。
「……」
空は刹那に見せない様に顔を下に向けた。
「…………」
気を遣わせてしまっただろうか……。
そんな……俺から表情を見せないように下を向いている空の姿を見ながら、俺はそう感じたが、話を続ける事にした。
「そして、それに輪を掛ける様に同級生、下級生、上級生…と女生徒が刹那の容姿を『かっこいい』と寄って来た。それに反応するように面白くないと思ったのが……」
「同級生……」
刹那の答えに刹那はゆっくりと頷いた。
「うん……。特に同級生達は近い距離で俺を見ていたから、俺がいつも中心にいたことが面白くなかったんだろうねぇ」
劇の発表会もマラソン大会も……委員会でさえ、周囲の大人たちは俺の意見も聞かず一番目立つところに置こうとした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……結局、あの頃刹那は誰からも見られていなかった」
「誰も? 親にも……か?」
龍紀は信じられないという顔だった。
「いや、でも……」
玄関先で対応をしてくれた母親からは……そんな暗い過去とは無関係に見えた。
「あの頃は遥さんにべったりだったからな」
ため息をついた後、苦笑いしながら瞬はそう言った。
「……」
ちなみに今、瞬が言った『遥さん』とは刹那の姉である。
しかし、今は亡くなっている……が、その頃はまだ生きていた様だ。そして、体が弱いが頭が良かった……という事は龍紀も刹那から聞いていた。
「で?」
「えっ……ああ」
続きが気になる……という感じで若干食いぎみで龍紀は尋ねた。そんな龍紀に対し瞬は苦笑いで答えた。
「まぁ……それで、そんな状況の元で俺たちは再会した……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「実は……俺、瞬を覚えてなかったんだよね」
「えっ?」
最初に出会っていた事が、その頃の刹那は綺麗サッパリ忘れていた。
「……」
ただまぁ、そうじゃなくてもその時の瞬を見て分かる人はいないと思う。
「まぁ、あれだけ違えばなぁ」
なぜなら瞬は髪を黒に染め、あれだけ綺麗な空色の目は暗闇の様に黒くなっていたのだから……。
「……確かに、よく見ていないと分からない」
同一人物だったとしてもぱっと見た最初に目がいくのはやはり、髪などの『色』だろう。
それなのにいきなり黒髪の友人が金髪になったら「どうしたのっ!?」と驚くはずだ。
しかし、それは友人の話であって、ほとんど面識もない人だった場合、別人だと思っても不思議ではないだろう。
「でも、半笑いで『カッコ悪ッ』には驚いたし……内心、結構笑えた」
「…………」
あの日、いじめっ子たちを前に「カッコ悪ッ」と言っている瞬の姿は、何となく想像が出来る。
ただ『半笑い』は……正直そこは、上手く想像出来なかった。
「その時、いじめっ子たちはしっぽを巻いて帰っちゃって……最終的に俺と瞬だけが残されてさ――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……いつまでそうしているんだ?」
瞬は座りこんでいる俺を見下ろしながら尋ねた。
「えっ……? あっ、ああ!」
「はぁ……ようやく気づいたのか?」
呆れ顔で瞬はようやく立った俺を改めて見た……俺の格好は砂だらけになった服に水浸しのランドセル。
「……」
そんな俺を見て、瞬は不思議そうに首をかしげている。
「ところで……」
瞬は前置きをして俺に尋ねた。
「なんでお前はあの時何も言い返さなかったんだ?」
「えっ?」
俺はドキリとした。まるで俺の心の中を見透かしたように言われた瞬の言葉に思わずそう呟いていた。
「? なんでそこで疑問が出る? お前は何も悪くないだろ?」
「…………」
その時、俺は何も言い返せない。瞬の言っていることが正しいと頭では理解しているからだ。
「悪くないのに、なぜ「俺は何もしていない。俺は悪くない!なんでこんな事をするんだ!」と言わない?」
「そんなの言いたいに決まっている!」
「じゃあ、なぜ言わない?」
「それが……」
――言えれば! どれだけ楽だろう……と、思う。
「……」
でも、それを言える程俺は強くない。
「お前に……お前たちに何が分かるんだっ!」
瞬の言う言葉が……どんどん俺の心を締めつけ、言いたいけど言えない『その言葉』が喉から先へ……そして口へと俺の意志に反して吐き出すように無意識に……出ていた。
俺は瞬の洋服を引っ張っり……この場にいるのは瞬ただ一人なのに、俺はついさっきのいじめっ子たちに向かって言っている気持ちになった。
そして、この言葉を言った瞬間、瞬は「言えるじゃんっ!」という満足そうな顔をしていた。
「……」
しかし、俺は瞬とは対照的に変に照れてしまい、その場で顔を覆った――。
「……」
その次の日から瞬が刹那の小学校に転校してきたのはその次の日からである……。
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