第8話
「はぁ……」
「いっ……いや、今聞く事でも無い……って分かっているけど」
「いや、そこは別にいい……」
「…………」
そう、そういう『問題』ではない。ただ『問題』があるとすれば……龍紀がこの話を一体『誰から』聞いたのか……という事である。
「…………」
この話を知っている人間なんて本当に限られている……はずだ。しかし、それをわざわざ聞いていいモノだろうか――。
「……そうだな……幽霊が見える。それは本当だ」
俺は重々しく答えた。
「……そっか」
「……」
もっと……こう大げさ……というか、オーバーリアクションくらいしても良さそうなモノだが……龍紀は、結構あっさりとしたリアクションだった。
「……それは、その……いつから…?」
ふとあっさりとしたリアクション……と最初は思ったが、気を取り直そうと必死に繕っている……という事が今の一言で分かった。
でもまぁ、わざわざそれを言うのもおかしな話だ。
「それは俺と刹那が出会った頃に話は遡るな……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『綺麗な人だな……』
俺が『そいつ』を見ての最初の印象はそれだった。
「あれ? 新しい人?」
そう言って少年は遠くで自分を見ている同い年くらいの……少年の様にも少女の様にも見える中性的な人物を指しながら『医院長』である父親に尋ねた。
「ああ……あの子はね……」
今思い出せば実はこの時が実は『瞬との出会い』だった。
「……」
そう、俺たちが会った場所は『刹那がいじめられている現場』ではなく……『宮ノ森病院』だったのだ。
「その時の人がまさか刹那だとは思わなかった……なんて月並みな言葉だけど、本当にそう思ったよ……」
「……女性が化粧をして別人……なら分かる」
空は具体的な例を上げて不思議そうな顔をした。
「……………」
しかし、そんな刹那の率直な感想を……刹那は『率直な疑問』で華麗にスルーしたところを見ると……もしかすると空はあまり人を聞かない人かもしれない……。
でもまぁ、何も言ってこないならわざわざ俺の方からツッコむのも変な話である。
「あー、そうだね。今の瞬を見たらみんなそう言うだろうね」
刹那は昔を思い出している様に空を見上げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「えぇっ!?こっ、これが……?」
思わず『違い過ぎるだろ!』と言いたくなるほどのビフォアである。
「……そんなに驚かなくてもいいだろ」
今、龍紀は生徒手帳に入っているという昔の写真を見せてもらっていたが……。
「……」
実はこの時の瞬の容姿が今とは全然違っていた。
「いや……でも、これは……さすがに……」
真っ白い白髪、そして、青空の様に澄んでいる……空色の目。
「……」
「確認したい気持ちは分かるが正真正銘……俺だ」
「いや……でも」
「何度尋ねられても『俺』だからな」
そう釘を刺しても龍紀は何度も俺と写真を見比べている……が、この反応は正直慣れている。
「この時に?」
「まぁ、そうなるが……。まぁ刹那は……どちらかというと『同い年の新しい病人』っていう感じで見ていたな」
「ふーん、つまり友人になるとは夢にも思っていなかった訳か……。で? 刹那はどうだった? 第一印象」
「まぁ『悪い言い方をすれば暗い。良い言い方をすれば大人しい』だな」
そう俺は即答した。
「……そう……?」
俺の昔の容姿にも驚いただろうが、刹那の昔の第一印象は……今の刹那を思い出すと……たった今、出た単語とは全く逆のイメージに感じただろう。
「まぁ、でもあの頃は本当に大人し過ぎただけどな」
まだ小さい頃の俺は、結構活発に遊ぶような子供だった。
「……」
でも……小学校に入ったあの頃から俺を見ている周囲の目は変わっていた――。
「何をしてもいつもいつも俺を見る以前に『家』を見ていたさ。小さい子供だからこそ……なのか『周囲の目』それが怖くて何も出来なくなったらしい……」
小さい子供は騙しやすい……。というのは大人たちの理論であり実際の所は間違いだ。
なんだかんだ言っても小さい子供の方が感受性豊かで隠し事は意外に上手くいかない。ましてや、刹那は当時そんな大人達の汚い気持ちに敏感に反応していた。
しかし、俺は簡単に『私にも分かるよ』という言葉は言ってはいけないもの……それはよく理解していた――。
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