第10話
「……まぁ、結局のところ俺に足りなかったのは自分の言葉で言う『勇気』そして、何が何でもやり通すっていう『気持ち』だった……ってあの時は分からなかったけど、今となってはそう言えるよ」
「じゃあ、あの少年に言った秘策は……」
「少年? あぁ」
刹那は思い出すように頷きながら言葉を続けた。
「まぁ、『秘策』なんて大それたモノじゃないよ。要は、気持ちのようだよ。それに、いじめっ子にしたって、まだ小学生だから、そこまで深く考えていなかったと思うし。でも、俺はさ。本当に運が良かったんだって思うよ。瞬に出会ってから俺は変われたし……」
そう言って刹那は、おどけた。実際、瞬と会ってからずいぶん変わったのだろう。
でも、それが分かる程その言葉には重みを感じられた。
「じゃあ、なんで『幽霊が見える』ことを黙って? 大事な事では……?」
空はそ、こが気になっていた。今の話を聞いて確かにこれで刹那と瞬の出会いは分かった。
しかし、それとこれとはまた別の話である。
「…………」
「あー……」
刹那は「やっぱり誤魔化せなかったか……」という顔で空を見ている。
「まぁ、なんだろう。それが……瞬との関係が少し歪んでしまった理由だな」
「えっ? 歪んだ?」
「瞬は、自分が『幽霊が見える』のは俺が元々持っていた『力』を奪い取った……って思っているんだ」
「どっ……どういうこと?」
空は、刹那の話は……正直、色々と飛び過ぎていて分からなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それにうーん、本当はここで話したいんだけど……」
そう言って刹那はチラッと時計を見た。
「……あっ!」
気が付いた時、周囲は外灯が点く程暗くなっている。
「まぁ、さすがに瞬もここまで時間がかかっていると怒るだろうし」
その言葉には空も賛成だ。
「とりあえず、後は瞬も含めて話をするよ」
「あの人も……ですか?」
「そうだね……うん。これはちゃんと瞬も含めて話さないと……ね?」
「そうですね」
刹那は、瞬の部屋へと歩き出した。
「あっそういえば、君……えっと、空ちゃん……だっけ」
「空でいいです」
「空ちゃんもかわいいと思うけど……」
「…………」
「あはは、ごめん。調子に乗り過ぎた。えっと、空はなんで瞬と一緒にいるようになったの?」
「そっ、それは……」
口ごもった空に変わって刹那は答えを言った。
「もしかして、この『カード』と関係があったりするのかな……。なぁんて?」
「!?」
「おっ?その反応は当たり?って事は瞬と何か関係があるな?」
思わず出てしまった表情に空はすぐに表情を戻した。しかし、後の祭りである。
「まぁ、それも含めて後で教えてもらうよ。でも、これ……『兎座』だよな」
「はい」
「確か兎座って……ギリシア神話では、このうさぎ座になったのは、狩りをするオリオンに踏みつぶされたウサギだろうと言われているよな?」
そう言って刹那はまじまじとそのカードを見た。さすが瞬が「天体に詳しい」と言ったいただけのことはある……と空は感心していた。
「確かにギリシア神話ではそうですが。他の物語では、これは森で平和に暮らしていたうさぎで、 オリオンに仕留められそうになったが、あまりにかわいさにオリオンも躊躇したという話や 真上のオリオン座となった勇者オリオンが狩り好きで、兎をよく狩っていたという話もあります」
「………」
「そのため、うさぎ座がオリオン座の下に描かれたのだろうと考えられている説もあります。それに……占星術では、ウサギはウイットのセンスを示すといいますが、同時にウサギはその多産な性質から、豊穣やゆたかさを表すとされていますし……」
「ふーん。まぁ、結局直接的な話は残ってないんだなやっぱり……」
「そう……ですね」
「まぁ、とりあえず空が欲しそうにしているからこのカードは渡すよ」
「……いいんですか? 私は欲しいとは言っていないのに……」
「さっきの反応見ればなんとなく分かるよ。それに、そのカードはさっき言っていた万引き未遂少年と話していた時になぜか俺の胸ポケットに入っていたものだし……」
そう言って刹那は空にカードを渡した。
「そういえば、少年曰くイジメが始まったのはここつい最近の話らしいな」
「そう……ですか」
……また『暴走』を?
そう空は考え込んだ。『兎座』自体にそんな力はなかった。
でも、『魚座』カードの暴走は『偶然』だと思っていた。しかし、まだ二回と言うべきか二回も……と言うべきか、どちらにしてもそのままにしておくべきことではないと思えた。
「でも、その話が本当であればすぐに事態は終息しますね」
「……だといいなぁ。何かあったらすぐに言えよって連絡先は教えたから、このまま何も起こらないのを期待しているけど……」
歩きながら刹那と空は会話を続け、瞬の部屋の前に着いた。
「……まぁ、今のやりとりでなんとなく瞬が『星座』を調べ始めた理由は分かった気がするけども……。とりあえず、今は早く教科書を持って帰ることだな」
「……」
そこで空は何か引っかかりを覚えた。
「あの……」
「なんだ?」
「さっきから『後で』とか『帰ってから』とか言っていますが……もしかして?」
「あれっ?君も俺の家に来てもらおうと思っていたけど……。あっ、親御さんに連絡しとく?」
そう言って刹那は携帯電話を取りだした。
「いえ、そういう事ではなく……」
「じゃあ、大丈夫だろ?」
「…………」
その有無も言わせぬ声に空は頷かざる終えなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして刹那が空と一緒に帰った時に、時計の時刻は七時を回っており、瞬から頼まれて一時間を超して帰った刹那に待ち受けていたのは「遅いっ!」と言う瞬の大声と『枕投げ攻撃』だった――――。
「ぶっ!」
もちろん、見事なコントロールのおかげで空には全く当たらず、刹那にクリーンヒットだったことは言うまでもない―――――。
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