第6話


「……ん」

「おっ、起きた? 聡」


「…………」

「…………」


「……みっ、実苑!?」

「おはよう。聡」


 突然、目の前がブラックアウトしたかと思ったら、今、目の前には幼い頃から暗くを共にしてきた友人がいる。


「……俺が言いたいこと、分かる?」

「…………悪かった」


 そう言ったモノの、実苑の表情は『笑顔』のままだ。


「……」


 ただ、その表情と感情が合っているか……と言われると、多分。逆だろう――。


■  ■  ■  ■  ■


「折里家は、俺の……俺たち母さんの実家の分家だよ」


「え……」

「??」


 実は、俺は父方の実家については知っていても、母方の実家についてはほとんど『知らない』に等しかった。


「瞬が知らないのは仕方がない話だよ。だって、母さんは俺たちに自分の事は言わなかった……あえて」

「あえて……」


「うん。それで、折里家は母さんの実家の分家。そして黒見里家は……確か、その折里家に仕えている家だったはず……」

「仕えていた?」


「昔の話だけどね。今となってはその主従関係は、ほとんどないみたいなモノだったはずだけど」


 確かに実苑さんと聡さんは、ずっと昔から仲がいいと思っていたけれど、それは刹那と俺が勝手にそうだと思っていた。


 でも、元々家同士の繋がりがあったからだろう。


「あっ、でも……」

「??」


「そういえば、その折里家の当主は今。かなり若かった様な……あっ、そうか。それが……」


「??」

「??」


 兄さんは何やら納得したように頷いているが、俺たちには全く分からない。


 ただ、兄さん曰く「ここ最近、折里家の当主が亡くなり、新しく当主が代わったらしい」という事を聞いた。


「ん? じゃあ……」

「多分、それが実苑さんなんだろうな」


 そこで俺はようやく兄さんの言葉の意味が分かった。


■  ■  ■  ■  ■


「そっ、それよりもどうして実苑が……というか、ここは一体……」

「ああ、ホテルだよ。さっき、連絡があってね」


「連絡?」

「うん、自分を『執事』って言っていた人からだけど」


「しっ、執事……」


 それは多分、俺に拳をたたき込んだあの人の事だろう。


「…………」


 見た目の年齢に反して、あの人の拳は重かった。それは、今でもズッシリと痛む腹で分かる。


「まぁ、それはそれとして……今回の事は刹那君だけじゃなく、瞬くんにも謝らないとね」

「…………ああ」


 ――天野瞬。


 彼には、本当に申し訳ないことをしたと思う。俺が思い詰めて……思い詰めて思い詰めた結果。


 その矛先が……彼に向いてしまった。


「聡が父さんを慕っていたのはよく分かっているつもりだよ」

「…………」


「ただ、今回の事はいただけない。でも、聡がこんな事をしたのは……やっぱり『あれ』かな?」

「……ああ」


 そう、それは実苑の父親……折里家の当主『苑城おんじょう』の葬式での事だった。


 俺は偶然、その言葉を聞いてしまったのだ。


『全く、病弱なのにも関わらず我々の計画に賛同せんかったから……』


 その言葉を聞いて、俺は直感した。


 苑城おんじょうさんは難病を患っていた。ただ、治療には莫大な治療費がかかる。


 だから、実苑の家は援助を受けていたのだ。


 しかし、ある日を境にその援助が突然途切れた。


 全員、その明確な理由を知らず、事情を知っているはずの苑城さんも、結局詳しい事は話してくれず、ただ……。


「仕方ないね」


 なんて言って寂しそうに笑っていた。


 俺は、なんでそんな表情をしていたのかずっと気になっていた。でも、この時になってようやくその『理由』が分かった様な気がしていたのだ。

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