第5話


「…………」


「瞬が考えている事は、何となく分かるよ。でも、その答えは単純でね」

「え」


「母さんが父さんの元に行った時点で、爺さんとその家とはまだ繋がりがなかったんだよ」

「そっ、そうなんですか」


確かに、単純明快な理由だ。


「うん。瞬も知っていると思うけど、爺さんが変わってしまったのは俺が生まれて物心がついた頃だ。だから、僕が生まれる前にはまだ爺さんはバリバリに仕事をしていた……という事になる」

「なるほど」


「でも、父さんと母さんが『社交場』で知り合ったのであれば、爺さんと母さんの実家が繋がりを持つきっかけも多分、また別のタイミングの『それ』だろうね」


「…………」


 それは、そうだろう。


 なにせ父さんと母さんとでは職種が違いすぎるように感じる。ただ俺は元々、爺さんはそういった場所には行きたがらない人だと思っていた。


 だから、父さんがいつも代わりに出席していたのだと……。


「まぁ、父さんが亡くなる少し前から爺さんもちょくちょく顔を出していたみたいだけど……ね? 宗玄さん」

「……はい」


 兄さんに促される様に宗玄さんは頷いた。


「まぁ、何にしてもその『場所』で何があったかは知らない。ただ、その本家の人たちは『母さん』を狙っているのは確かだね」


 そう兄さんは断言した。


「……ねぇ」

「ん?」


 しかし、断言した後。不意に刹那が俺の服の袖を引っ張った。


「前から聞いていたんだけど、瞬のお母さんってかなり実家の事を毛嫌いしていたんだよね? 家出するくらいに」

「あっ、ああ」


「じゃあ、たとえ空に乗り移ったとしても、言うことを聞くとは思えないんだけど」


「……」

「……」


 刹那の素朴な疑問に、俺と龍紀は無言になった。なぜなら「確かに……」と思ってしまったからだ。


 仮に、母さんが儀式によって空に乗り移ったとしても、その実家の言うことを聞くとは到底思えない。


 またも逃走してしまう可能性の方が考えられる。


「ああ、それなんだけど。聡から聞いた話によると、その女の子が今回の話にのった理由は『彼女が育った孤児院』なんだよ」


 その言葉を聞いて、一瞬。その場が凍ったように感じた。


「孤児院って、まさか……」


「そう、この話にのらなかったら孤児院の経営を止める……みたいな事を言われたらしいんだ」

「そっ、そんな簡単に……」


「でも、現に本家の方の経営は芳しくない。そもそも本家と分家が疎遠になったのも、本家の力が弱まっていたのと、分家がそれぞれ個別に独立出来るようになったっていうのもあるんだよ」

「まさに、金の切れ目が縁の切れ目ってヤツか」


「しかし、空さんの家はその独立出来るほどの経済力はない……という事なのですか? それだけの経済力があれば……」

「あー、あの子は元々の『素質』のためにその家に引き取られた……ってところだから、あの家に居場所があったかって聞かれると……正直」


「…………」


 そう言って実苑さんは視線を反らした。ただ事情を聞けば聞くほど、空がかわいそうになってしまう。


「まぁ、なんにせよ。あの子にとって育ててもらった居場所を失いたくない。それを瞬のお母さんは多分、知ることになる。そうなったら、さすがに言う事を効く……はずと思ったんじゃないかな」


「……まぁ」

「母さん、基本は優しいからね。自分で何でもしてしまうし、出来てしまう人間ではあるけど、お人よしでもあるから」


 それに関しては、俺も兄さんの言葉に賛成だった。

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