第4話


「兄さん……」

「……はぁ。うん、知っていた。結構前から」


 さすがにここまできて逃げるのは、一種の恥だと思ったのか、兄さんはすんなり認めた。


「なんですぐに言わなかったんですか」

「言ってもどうしようもなかった……っていうのが一番の理由だよ」


「ん?」

「それってどういう……」


 刹那と龍紀も兄さんの説明には納得がいっていない様だ。


「それについては、さっき言った話が関係してくるんだ」


「さっきの話……」

「えと、実は『力』みたいなモノはほとんどが『物理的なモノ』という話ですか?」


「そうそう」

「でも『ほとんど』という表現をしたという事は、当然『精神的に作用するモノ』を使える人もいるという事ですよね?」


 俺の指摘に、兄さんと実苑さんは頷いた。


「……確かに、そういった人もいる。でも、それは本当にごくわずかで、俺が知る限り片手で数えられるか……くらいだ。それに、そもそも『物理的』とか『精神的』とかカテゴリーをなくしても、本家や分家の各家庭に一人いるかいないか程度だ」

「まぁ、そうそうそんな人がいられても……とは思うけどね」


 兄さんはそう言って苦笑いをした。


「そもそも本家と分家は、昔こそ繋がりはあったけど、今となっては疎遠になっている家も多いから。ちなみに、聡から色々と情報は仕入れているよ」

「え、聡さんから……」


 話を聞くと、聡さんはまだ本家に潜入して情報収集をしているらしい。その中で得た情報の一つがそれだったようだ。


「聡さんも持っていたんですね」

「いや、聡の場合は……あれは『力』というよりは少し違って、化けるという表現のが方が合っているかも知れないね」


「化ける?」

「変装って意味だよ。それこそ別人、もしくはターゲットに……という感じの」


「…………」


 兄さんはサラッとそう言ったが、ドアの近くに立っている宗玄さんはその言葉に一瞬、ピクッと反応した。


 どうやら、宗玄さんはその話に何やら関係がありそうではある……が、今はもう解決しているらしい。


「でも、その精神的な力が母さんとどんな何の関係が?」


「…………」

「…………」


 そう尋ねた俺に対し、兄さんたちは口を閉ざした。


「まさか、その『精神的に作用する力』を瞬のお母さんが有していた……という事? 例えば、記憶とかに作用するような……」


 刹那は口元に手を当てながら、天井を見てそう言った。


「記憶……そういえば」


 今までの話を聞いていて思ったが、爺さんが母さんの実家と繋がりを持っているのは明らかな様だ。


 しかし、そうなると……どうして、あの時。


 ――あの時をわざわざ狙いすましたかの様に、あの人たちは俺の家に来たのだろうか。


 もっと言ってしまえば、母さんが父さんの家に来た時点で……いや、家を出た時点で連れ戻す事も可能だったのではないのだろうか。


 俺は……そう思えてならなかった。

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