第10話
ただ……なんだろう。焦る必要はない……って自分で自分に言える様な気がする。いや、そう感じる様になっていた。
「それで? お嬢さんも何か聞きたいことがあるみたいだね?」
「……お前なぁ『空気を読む』って言葉を知らないのか?」
聡さんは会ってから今まで聞いたこともないようなちょっとドスの聞いた低い声で呟きながら片手で実苑さんの顔面を掴んだ。
「いっ、痛い! 痛いよ!」
あれ……は『アイアンクロー』だな。
「……」
さっきから聡さんは怒るとプロレス技を実苑さんに仕掛けるらしい……と若干怯えを感じながら静かに脳裏に刻んだ。
「うー……」
当然、聡さんは頭を押さえながら痛がっていた。
「だってさぁ……」
しかし、いつものことなのか怒るわけでもなく何事もなかったようにすぐに平然としていた。
「自慢じゃないけど、俺、頭よくないしさ……」
「これは察しがいいかどうかって話じゃないだろ……」
「……」
「まぁ。とりあえず、君が聞きたいのは実苑の弟の『理苑』だろ?」
聡さんが言った『理苑』の言葉に空はコクンと首を縦に振った……という事は……そういう事だろう。
「あー、理苑なぁ……。あいつは今、部活動を頑張っているぞ?」
「……そうですか」
空はその言葉に微妙な顔をした。
「……」
「……」
多分、空の聞きたかった事は確かに『それ』だけど『それだけ』ではなかっただろう。
「まぁ。一応、フォローするが……。理苑もかなり後悔していた……だけど、今入っているバレーボールを続けるきっかけになったのは、瞬と刹那だ」
「えっ?」
「……そうなんですか?」
聡さんの意外な一言に俺たちは目を丸くした。
確かに『部活動を頑張っている』というのは、学生でどこかの部活に所属していれば頑張るだろう。
しかし、そのキッカケが『瞬と刹那』だったというのは……正直驚きだ。
「あー、確かにそうだったかも。理苑があの後謝った時に『メンバーが足りないから』っていう理由で、小学生のバレー教室を通じて仲良くなった……って言っていたっけ」
実苑さんの言葉に聡さんは続けて説明した。
「なんだかんだ言っても理苑も『謝るきっかけ』が欲しかったんだろうな」
「……」
「……」
「そして、今でもバレーを続けているのは……ただ単純に『楽しい』という気持ちと『仲良くなれた』っていう経験があったから……だと思うぞ」
「まぁ、二人が転校した後、続けるか迷っていたみたいだけど……。今は、全国に行って瞬と刹那に頑張っている姿を見せたい……って言って頑張っている……ぞ? って……ん?」
「なっ、なんですか……? 俺の顔に何かついていますか?」
突然、実苑さんは俺の顔をじっと見てきた。
「君……もしかして、インターハイ出ていた?」
「え? はい……。出ていましたけど」
決して嘘では無い。だから、素直にそう答えると…………。
「嘘だろ! マジで!? すごいじゃん!」
「はぁ……。今の今まで気づかなかったのか」
聡さんは呆れたようにため息をつきながら額に手を当てていた……というより、聡さんも気が付いていたの事に、正直驚きだ。
「……あのぉ」
「ん? どうした?」
「そろそろ『結界』から出たいんですけど……」
「あ」
完全に忘れてしまっていたが、確かに二人から「この『結界』に閉じ込められている」と言われて十分は経っている……はずだ。
「え?」
しかし、実苑さんはキョトンとした顔で俺たちを見わたすと……。
「何を言っているんだ? もう出ているだろ?」
そして、不思議そうにこう言ったのだった――――。
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