第9話


「さぁてと! とりあえず本題の『結界』から脱出するかぁ!」

「はぁ……お前、かなり待たせるんだな」


「……色々仕込みとかがあるんだよ!」

「はいはい」


 聡さんの言葉に実苑さんは不機嫌そうに食ってかかったていたが、聡さんは適当にあしらいながらそのまま俺たちの方へと視線を向けた。


「……?」

「仕込み……ですか?」


 ただ、当の俺たちはその『仕込み』が何のことなのか全く分からない。


「まぁ簡単に言えば『結界』を出る為の『仕込み』というよりは『準備』だ」


「えっ」

「いっ、いつの間に」っている


「でも、出来るのは修行をした人間だけでさ」


「えと……それって」

「つまり……」


「ああ。つまり、ここにいる人間で言えば実苑だけだ」


 聡さんの言葉に実苑さんは「えっへん」と言い足そうに胸を張っている。


「……」


 そう言えば……あの時、瞬と刹那を助けたのは結果的に実苑さんだ。


「……」


 こう言うのはとても失礼だとは思うが、聡さんは……何も思わないのだろうか。一緒にいるのに、助けることが出来るのは『実苑さん』だけという事実に……。


「……あの」

「ん?」


「あっ……いえ……」

「?」


  しかし、そんな事を改めて言うのはやはり気がどうしても引けてしまう。


「……この現状に何も感じないかと言われると……いつも微妙な気持ちになる」

「っ!」


 俯いたまま何も言えずにいた俺に対し、聡さんは突然そう言い始めた。


「ただあいつの事は……ちゃんと見ておかないといけない……そう思っている」

「見ておく……」


「ああ」

「……」


 確かに、彼らは『普通』とは若干……違う。人に理解されない……という事は、実はかなり辛い。


 そんな中で一人……たった『一人』でも味方。キチンと見てくれている人がいるのは……とても心強い。


 それは俺にも経験がある話だ。


「ん~? 二人ともどうした?」


「いや……やっぱり、お前は『バカ』だなって話を……だな」

「えっ!? またバカに格下げかよ~!」


「……もう、大丈夫?」

「え……」


 空の言葉に思わずドキリとした。


 まさか、空にまで心配されているとは……でも、そんな言葉をかけられてしまうくらい、さっきまでの俺は沈んだ表情をしていたのだろう。


「ああ……」


 そう呟き……実苑さんと聡さんが言い合っている姿を見た。


「もう……大丈夫だ」


 小さく呟くと、俺は在ることに気がつき……だんだん実苑さんと聡さんの関係が分かってきた今の俺は『焦り』は……もうなかった――――。


「…………」

「…………」


 ふと我に返った瞬間、全員俺を見ている音に気がついた。


「なっ……なん……ですか? 一体……」


「うーん……」

「……何か吹っ切れた様な顔をしているように見えるな」


「そう……ですか?」

「うん」


 どうやら、無意識の内に表情に出ていしまっていたらしい……けど、確かに『吹っ切れた』のは事実である。


「……」


 俺は今の目の前にいる実苑さんと聡さんを瞬と刹那にふと置き換えていた様だ。


 でも、そのおかげで……いや、聡さんの言葉のおかげで、今まで感じていた『焦り』が嘘の様になくなっていた――――。

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