第8話
「……」
「……すごい」
いや「本当にキレイに腹に入ったな……今」なんて事はさすがに口に出すのははばかれる。
「うー……」
……本当に下手に口出しが出来ないくらい実苑さんは痛がっていた。
「でも、お二人は瞬と刹那とは疎遠になったんですよね?」
「いや」
「……疎遠になったつーか」
俺の言葉に実苑さんは蹴られたお腹をさすりながら恐る恐る……といった様子で聡さんを見て……尋ねた。
「……転校した」
「えっ?」
「だから、あいつら二人とも遠足の後、転校したんだ」
たった一言……だけではよく分からなかったけど、改めて言葉にされると……なんて考えると、沈黙の時が流れた――――。
「――転校ですか?」
「あぁ。あの一件の後、一ヶ月も経たずに刹那の姉の……確か名前は、遥さんの容態が悪くなったらしい」
刹那にお姉さんがいた……という事は聞いた事がある。ただ、そこまで『病弱』だとは聞いていない。
「そうなんですか?」
「うん。確かにあの後刹那も熱を出したけど、遥は……ちょっとしたことが命取りになるらしいね」
俺はたった今、実苑さんの一言が……思わずサラッとと流しそうになったが、やはりず引っかかる。
「…………」
「何が言いたいのかは分かる」
不思議そうな顔をしている俺に聡さんは見透かした様にそう答えた。
「簡単に説明すると、刹那の姉の遥は俺達と同じ学校のクラスメイトだ」
「……そうだったんですか」
――これは初めて聞いた話だ。
「……つまり、お二人が疎遠になってしまったのは瞬と刹那が『転校』したから……という事ですか?」
「まぁ、そう言うことになるね。遥の病気を治すために大きい病院に行くことになって、また戻って来たタイミングで亡くなった……っていうのは風の噂で聞いたよ」
少し寂しそうな顔で実苑さんは俯いた。
「あっ、そうだ。ところで……」
「はい」
「君たちの名前聞いてなかったね」
「……今更だな」
「仕方ないだろ。どうもタイミングが掴めなかったんだから……」
「そう……でしたね。じゃあ、改めまして。俺の名前は『玉村 龍紀』です」
「私は『星川 空』です」
「俺たちは……改めていう必要はないな」
聡さんはそう言いながらウズウズしている実苑さんを横目で制した。
「えー、いいじゃん。自己紹介ぐらい」
しかし、聡さんの言葉に実苑さんは不機嫌そうだ。
「お前の自己紹介は支離滅裂になるからダメだ」
「えー」
「……」
「……」
俺と空は無言のまま……突然始まった実苑さんと聡さんのやり取りを見ていた。
――とは言っても、自己紹介で『支離滅裂』というのは……あまり聞いたことがない。
ただまぁ、大体どういう事になるか……という事の予想はつく。
要するに『あれも』『これも』と言いたいことをなんでもかんでも言ってしまい、結果。自分でもよく分からなくなってしまうのだろう。
「……」
「……」
それにこの二人のやり取りが何時間も続くモノでもないだろうし、ましてやそれでケンカになる事もないだろう。
現に――――。
「まぁいいやっ!」
「……」
二人がやり取りを始めた……と思って少し考えている内に、突然実苑さんはそう言って聡さんとのやり取りを打ち切り元気よく気を取り直した。
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