第3話


「……はっ!」

「えっ?」


 なぜなら少女がすぐに俺から視線を外し、自身が持っている『あるモノ』の対応に追われたからだ。


「……ん?」


 少女はなぜかその『あるモノ』の『分厚い本』を大事そうに持っていた。


 そしてその本が何やら異変を起こし、とても慌てた様子でその本を確認している。しかし、かなり厚い。その見た目はさながら『辞書』を連想させるほどである。


すると……


「……うっ!」

「なっ! なんだ!?」


 突然、目がくらむ程の光が俺たちを包み込んだ。


「……? なっ、何だったんだ……?」


 光でくらんだ目を少しこすりながら少女の姿を探したが、その少女は目の前にいたから、迷う事も無くすぐに見つけることが出来た。


 そして先ほど出た光は何事もなかったかの様にすぐに収まったが、俺自身にも少女にも特に何も変化は起きていない様だ。


 でも、さすがに色々起きても困るが……。


 ただちょっと変化があったとすれば、さっきまで俺たちの近くでひそんでいた幽霊たちが、さきほどの光を見た途端逃げ出した事と……少女がさっきの光で持っていた本を地面に落としてしまって事くらいだろうか。


 しかし、なぜかその本が『電気』みたいなモノをまとっているのだが……普通。本に『電気』なんて起きないはずだ。


 その上、本はなぜか『電気』の様なモノを出している少女を拒絶している。


 だが、少女としてもその本は大事なモノだったらしく、そんなことを気にせず、果敢かかんにその本に向かって手を伸ばしていた……。


「……いたっ!」


 しかし、本は少女の何が気に食わないのか、電気を発しながらさきほどから変わらず少女を拒絶している……と思っていると――。


「……っ!?」

「こっ……今度は何だっ!?」


 今度は、突然本がページ開いたまま突風が吹き荒れた……。


「っ……」


 吹き荒れる風の中、俺は必死の思いで目を小さく開けた。


「あっ! 本が!」

「くっ……!」


 そんな風の中、少女の本は高く舞い『何か』が空に散らばっていく姿をただ見ている事しか出来ない。


「バサバサッ……!」


 風が小さくなるとその『何か』が俺の目の前に落ちて来た。俺はその落ちてきた『何か』を手に取ると……。


「……ん?」


 空から降ってきた『それ』もしくは『何か』は一枚のカードの様だ。そのカードの中には何やら背景がえがかれている……。


 そのカードに描かれていた『絵』はとても美しかったが、なぜか『背景』のみえがかれているのが不思議だ。


「ん?」


 突然、何やらカードが光を発したように見えた……と思った瞬間――。


「うっ!」


 またもその光に目が眩んだ。


「はぁ……」


 なんで今日はこんなに『光』やら『風』やら謎の自然現象に巻き込まれるのだろうか……。


「本当にこんな事ばか……り?」


 一人、愚痴を言いながら目を擦ると……何やら『影』があることにふと気が付いた。そして、視線を上に向けると……そこには『金色の毛を持った羊』が、なぜか俺の目の前にいた。


「えっ? 羊?」


 しかし、なぜかその羊は俺を一瞥いちべつしただけで、襲ってくるわけもなく、特に何をする事もなく、森の茂みへとそのまま走り去っていった。


「……なんだったんだ? 一体」


 そんな突然起きた出来事に、俺は放心状態のまま小さく呟く事しか出来ず、気が付いた時には、羊の姿は全く見えなくなっていた――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……!」


 黄金の羊の姿が見えなくなり、そのあまりに幻想的な景色に思わず見入ってしまっていたが、すぐに我に返った。


「いっ、今の……は?」


 しかし、辺りを見渡しても当然さっきの黄金の羊はどこにもいない……。


「なっ、なんだったんだ?」


 一連の出来事を思いながらもう一度、握りしめていたカードに目を落とすと……。


「え……」


 さっきまで俺が持っていたカードには『背景』しかなかったはずだ。


 しかし、今はさっき見た羊と同じように金色の毛を持った羊の絵が美しく描かれている。その上、背景もさっきまではなかった流星や星が書き足されていた。


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