第3話
「ところで瞬様……」
「はい?」
突然声をかけられた俺はほうれん草を切っていた手を止めた。
「…………」
しかし、尋ねた側であるはずの宗玄さんは一瞬「何と聞くべきだろう……」という顔をした様に感じた。
その一瞬の間と顔から俺は宗玄さんが何を聞きたのか分かった気がした……が、わざわざその質問を聞かれてもいないのに答えるのも変だろう。
ここはあえて聞かれるまで待とう……と律儀かどうかは別として宗玄さんの考えがまとまるまで待つことにした。
「……いつも朝食はきちんと食べていらっしゃいますか?」
「…………」
やっぱり『それ』ですか……なんて正直そう言いたくなったが『それこそ』わざわざ言う事でもないので俺はこの思ったことを伏せた。
「そうですね。一応食べています」
「一応、ですか?」
「……はい」
「……」
別に『癖』という訳ではないが『一応』という言葉をつける事がたまにある。
「たまに食べずに行く事もありますし……」
そう言って俺はチラッと用意されている料理に目を向けた。
「ここまできちんとした朝食は食べていません」
実際のところ、食パン一枚だけの日やもっと言えば麦茶などの飲み物だけ……さらにもっと言えば最悪何も口に入れずに学校に行ってしまう事がある。
そういう意味で『一応』と言った。だが、『一応』という言葉に言い訳を含み、逃げる人もいる……。
「…………」
そんな俺の姿を見ながら黙りながら宗玄さんは茶碗を取り出した。
「……そうですか。では……」
「あの……」
「なんでしょうか?」
「いや……。どう見ても……盛り過ぎ……ですよ」
「いえ……、昨日の夕食の量を見た限り、このくらいは簡単に食べられはずです」
「……」
宗玄さんはそう言って茶碗に大盛りのご飯を盛っている。
「あっ……。そう……ですか」
宗玄さんがあまりにも確信した様に言っていた為、否定する事もせず大盛に白米が盛られた茶碗を宗玄さんから受け取った。
……これを食べるのか。
あまりの兄さんの食欲に……俺はその兄さんの茶碗を持ったままほうれん草のおひたしやみそ汁、サンマの塩焼きまで並んだ完璧な『日本の朝食』を前に座った。
「それでは、私は想様を起こしてまいります。ごゆっくりお寛ぎください……」
「あっ、ありがとうございます」
そう言って俺は宗玄さんの後ろ姿を見送った。
「…………」
どうやら兄さんを起こしに行く様だ。そして、俺の考えていた事は……どうやら間違っていなかった様だ。
「ふぅ……」
俺はスッキリした顔でみそ汁を飲みながら久しぶりの『日本の朝食』を堪能した。
「……!!」
「……」
「はぁ……」
————ちなみに、その後兄さんの部屋から宗玄さんの怒る声がしたのは言うまでも無い……。
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