第4話


「うっぷ……」


 俺は朝食を食べた後ひとまず、食器を片付け部屋に戻った。そして、俺はすぐに部屋の机に突っ伏していた……。


 とりあえず、食器を洗うのは宗玄さんが「後はお任せください」と言ってくれた。その言葉に俺は甘えて今に至っている―――—。


『……大変そうですね』

「……」


 机に突っ伏していた俺にとある人物の声が俺の上から降ってきた。


「……『ヘラクレス座』さん……ですか」

『僕の名前を忘れそうな程ですか……』


 一瞬『ヘラクレス座』はシュンとした様に顔を下に向けた。


「いっ、いえ。そういう意味では……」


 そう言いながら俺はここに来てから三人に連絡をしていなかった事を今更ながら思い出した。


 だが、ここには電話が無い。


 それだけでなく食堂以外の場所は軒並み電波が悪いらしい……という事を宗玄さんから聞いた)


「……誤解を生むような言い方をわざわざしないで下さい」

『……ごめんなさい』


「……いや、律儀に謝られても困りますが……」

『ですが、辛そうに見えましたので……』


「……ただの食べ過ぎです。お気になさらないで下さい」


 俺がそう言って微笑むと『ヘラクレス座』もどこかホッとした様だった。


 そうさっきから俺に話しかけている『ヘラクレス座』はいわゆる『幽霊』と呼ばれる類の普通の人間には見えないモノである。


 ただ、『幽霊』の類というだけで『幽霊』ではない……。


 尚更分かりにくくしているかも知れないが、この『ヘラクレス座』はさっき話に出て来た『星川空』が集めている『カード』である。


 その為、本来であればすぐに持ち主に返すところなのだが……。


 でも、明確な『カード』に戻す方法もあまり分かっていない……という事と、まだ聞きたい事もある。


 その『聞きたい』事を聞くまで空には申し訳ないが『カード』に戻す気は無い。


『……ところで、『食べ過ぎ』とはどれくらい召し上がられたのですか?』

「…………」


 わざわざそれを聞くのか……そう感じてしまったが、昨日会ってからずっとこんな感じで話をしている為、俺は手で大体『これくらい』と表現した。


『えっ、そんなに召し上がられたのですか?』


 分かり切った返答をされたが俺は逆にその反応に和んでいた……。


『えー、コホン……。じゃあ、もう少しゆっくりされた方がいいですよね?』

「そうですね」


 少し和んだところで俺は『ヘラクレス座』の言葉に甘える事にした。もう少しゆっくりする事にした。


「それでは、しばらくそっと……」

「バンッ……!」


「……はぁ」


 俺は突然開かれた扉にため息をつき、ノックもせず入ってきた人物に向かって枕を……投げた。


「うわっ!」

「せめてノックぐらいして下さい……」


「えー? せっかくお兄様が会いに来てあげたのに~?」

「…………」


「……ごめん」

「まだ何も言ってないですよ……」


「だからごめんって!」

「だから何も言ってないです……」


「むー……」

「……」

 

 兄さんは机の前においてある椅子にもたれながら座っていた。その姿は『可愛い』ではなく『あざとい』という単語が似合いそうだ……。


 こういう態度をとる女子を何て言ったか。えっとブロッコリー……じゃなく……。


『ぶりっこですよ……?』

「…………」


 ……ちょっとド忘れしただけだ。


 ヘラクレス座の訂正に俺は一瞬恥ずかしくなったが、俺はそれを表情には出さずにヘラクレス座に返した。


 しかし、俺の思っている事を兄さんが『心を読んでいないか?』と心配になった。


「…………」

「? 何?」


「いえ……」

「えー? 何? 気になるじゃんか」


 ……この様子だと、今は読んでいないようだ。


 俺は内心ホッとした。兄さんは、『人の心を読む事が出来る』が、それは兄さんが『その気になった』時のみでずっと出来るものではない。


 その人生はきっとつまらないだろう……と俺は勝手に想像した。


「? 大丈夫? なんか今日はぼーっとしている様に見えるよ?」


 笑顔で俺を見ている兄さんに言葉を返した。


「……別に何でもないですよ……というか、むしろ突然扉が開いたからって枕を投げたのだから俺が謝るべきですよね?」

「うーん。でも、元々は俺がノックをしなかったからさ?」


 そう言いながら首を傾げた。


「…………」


 今、俺の目の前で『あざとい』という単語が似合いそうなくらい態度をとっているのは間違っても『女子』ではなく『男』でしかも俺の兄でこの家の家主である『龍ヶ崎想』である。


 まぁ、ついでに言うなら……なんで、そっとしてください……っていう時に限って騒がしいのだろうか……。


 ここ最近はこういった騒々しい生活が普通になっているので驚きもしない。だが、驚きの代わりに呆れたようなため息が出る様になっていた。

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