第4話


「……」


 まぁ、それはさておき――。


 刹那はたまにこうやって『提案』と称して色々なことを言ってくる……が、それ自体は悪いことではない……ないのだけど、その提案の内容が度々ぶっ飛んでいることがあった。


 例をいくつか上げるなら……たとえばあれは、家庭科の調理実習の時のことである。


 あの時、刹那は「面倒だから……」と突然言い出し調理行程をすっ飛ばし、この世のモノとは思えない代物を作り出す……とかマラソンの時、コースのショートカットを試みるも道に迷い、逆にマラソンコース以上の距離を走る……などなど言い出したらキリがない。


 ただ普通に日常生活を送るだけで、黒歴史が出来る稀有な人間だと思う。


 そして基本的に、俺はそういった『提案』に巻き込まれていた。まぁ、お陰様で、刹那からの『提案』という言葉に異様に反応する様になっていた。


「まぁ、それはいいとして……」

「?」


「とりあえずその提案は何だ?」

「あっ、うん。提案ってほどじゃないけど、俺が瞬の部屋に取りに行けばいいんじゃないかな……って」

「………………」


 今回の刹那の『提案』に俺は、内心ホッとした。それは、俺の中では想定内というより、まぁむしろそうなるだろうと思っていた。


 でもまぁ、問題はない。それに、刹那は俺の部屋の場所を知っているし……。


 しかし、まるで犬の様に「どうどう?」と刹那の顔を見てその『提案』を拒否することは…………。


「…………」

「……じゃあ悪いが、頼めるか?」


 ――――――出来なかった。


 俺は欲しいテキストと教科書を書いた紙と部屋の鍵を渡した。


「うん! 任せろ!」


 そう言って刹那は意気揚々と部屋を出て行った。


「……」


 俺はその後ろ姿を黙って見送った……いや、見送る事しか出来なかった。


「……まっ、まぁ大丈夫だろ……」


 俺は何の根拠も無い結論で自分を納得させ、刹那が帰って来るまで寝ることにした――――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「………あれ」


 少女は部屋の明かりを遠目で確認したが、いつも点いているはずの部屋に、今日は明かりが点いていない。


「大体この時間帯はいるはずなのに……」


 確かに、「偶然いない」ということもありえる……が、『あの人』は基本的に外出をあまりしない。


「あっ……」


 そこで少女は『あること』を思い出した。



「………やっぱり、来ると思ったよ」

「っ!」


 少女は、、ビクッと声が聞こえた方を見た。


「……君だったんだね」

「…………」


「最近、瞬と仲良くしていたのは」

「…………」


「あっ、そんなに身構えなくていいよ……。って言っても説得力ないかな?」


 そう言って少年はゆっくりと空の前に現れた――――。


「………………」

「………………」


 依然として二人は沈黙したままお互いの出方を窺っていた。


「………………」

「………………」


 まぁ普通、誰だって突然話しかけられたら多少は身構える。つまり、この状況は、出方を見ているよりは、身構えたその結果だ。


 だが、そんな沈黙はすぐに刹那の『提案』によって破られた。


「まぁ、こんなところじゃなんだし場所変えようか?」

「…………」


 刹那の提案に空は無言で頷いた。


「…………」


 そう、そこはこの間、瞬と話している途中で幽霊の少女と出会った公園だった……。

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