第7話


「聡の気持ちは分かるし、分かっていたつもりだよ? それに、俺の為でもあったんだよね?」

「…………」


 実苑の父親で折里家の現当主であった『苑城おんじょうさん』は生前「自分の後、後継者は実苑で……」と言っていた。


 多分、実苑は俺があの日偶然聞いてしまった『あの計画』の事も知っているという事だ。


 つまり、知っても尚、実苑はその上の人間たちの加担要求を拒み続けている……という事を俺は知っていた。


 そして、拒み続けている事自体に罪悪感を感じている事も……知っている。


「でも、俺も理由なしにずっと頑なに拒んでいる訳じゃない。俺はあの話をきかされてからもずっと……今でも間違っていると俺は思っている」

「……そうしなければ」


「……分かっているよ。俺たちの家はただの分家だ。力なきモノは強者に倒される」


 悲しいがそれが『自然の摂理』というモノなのだろう。


「でも、聡は『あの本を持ち帰る事』でそんな現状を打破出来ると思ったわけだ」

「ああ、あの本を持ち帰れば、これ以上の協力は強要しない……」


「なるほど、そう言われた訳か……」

「……ああ」


「ふーん、つまり。聡は『あの計画』の話は知っていても、詳しくは知らないって訳か」

「……そっ、それは」


「……結論だけ言うとね。あの家の人たちは『ある人を生き返らせようとしている』んだよ」

「なっ……そっ、そんな事。一言も」


 そう、一言も言っていなかった。


 俺は思わず狼狽えてしまったが、でもちょっと考えてみれば、分家の下に仕える従者に詳しい事を話すとは……思えない。


 あの家の人はそういう人たちだ。


「でもまぁ、今の問題は……」

「??」


 そう言って実苑は「うーん」と座っている椅子で軽く伸びをした。


■  ■  ■  ■  ■


「じゃっ、じゃあ……理苑りおんが俺をイジメていたのって?」

「……ああ。刹那がイジメられ始めたのが新学年が始まった頃だ。そうだとすると、理苑は元々俺と仲良くなって母さんの実家との繋がりを持とうとしていたんだろうな」


 ただ、俺は母さんの実家の事なんて知らなかった上に『繋がり』なんて、その時にはなかった。


 周りの大人たちは俺の詳しい家の事は知らないはずだ。だからこそ、刹那を特別扱いにみたいにしていたのだろう。


 しかし、理苑だけはどうやら事情が違ったようだ。


「まぁ、瞬が母さんの実家のことを知らなかったとはいえ、母さんの息子で在ることには変わりない。だからこそ、どうにか取り込もうとしていたんじゃないかな」


 でも、そうは上手く事は運ばず……俺が転校した時点で、俺と刹那は友人だった。


「それだったら一緒に仲良くすれば……」

「……どうだろうな。当時の理苑の性格を考えると、難しいだろ」

「まぁ、それは幼さ故に……かな。何事も一番じゃないと気が済まないって気持ちが勝ってしまったんだろうねぇ」


「…………」


 なるほど。その素直な気持ちの結果が……あれだったのか……と納得した。


「さて、それじゃあ。もうちょっと付き合ってもらおうかな」


「ん?」

「??」


 俺と刹那は「どこへ?」という表情で兄さんの方を見ると……。


「さっき宗玄さんから連絡があった。瞬を襲おうとしていた聡さん。目を覚ましたらしいから、彼のご友人も交えてちゃんと話を聞こう。どうしてあんな強硬手段をとってしまったのか……とかさ」


 兄さんの言葉に、俺は「どうしよう……」と思ってしまった。


「……」

「……行こう。瞬」


 しかし、刹那に促され、俺は決心した。


『ちゃんと話を聞こう……』


 そう思い、俺は「ああ」と短く返事をし、兄さんの後をついて行った……。

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