第23章 コップ座
第1話
「でもまぁ、さすがに俺たちがどうこう言える話じゃないよね」
「ああ、悪かったな。心配かけちまって」
「いや、これだけ色々な事が起きれば気持ちも休まらないだろ。何か出来ることがあれば気軽に言ってくれると助かる」
「えー、それ。龍紀が言っちゃう?」
「むっ」
「……確かに、俺たち以上に毎日忙しいよな。龍紀は」
龍紀は生徒会長かつ部長であるし、今の時期は『卒業式』と『入学式』だ。
今は卒業式が終わった状態だが、そこから一ヶ月も経たない内に入学式があり、新入生たちがやってくる。
コレは生徒会が関わっているのだが、新入生たちが入学してきたところで龍紀の仕事は終わらない。
「だってさ。入学式が終わっても新入生に部活動紹介があるじゃん」
「そういえば龍紀は部長でもあるからな」
そう、その後には『部活動紹介』がある。
「まぁ、そうだが……。その点は大丈夫だ」
「そう?」
「??」
つまり、龍紀の仕事は『入学式』が終わってもまだあると言うことだ。
龍紀はその準備もしなければならない。まぁ、本人曰く「先輩たちが代々してきた紹介の仕方をするから、まだ楽だな」との事。
毎日毎日、
「そういえば、このカードが瞬の手元にあるって事は……」
「……会っていないのか? その『少女』に」
刹那と龍紀は、机の上に置かれた『カード』を見ながらそう言った。
「……ああ」
この『カード』たちが俺の手元にきたのは昨日の事だ。しかも、電話をしていたのは『夕方過ぎ』からである。
彼女……空が俺の部屋の前にいた事はあっても、俺の部屋の扉を叩いたりチャイムを鳴らしたり……なんて事をされたことはない。
「そういえば、今までの『カード』ってどうしているの?」
「どう……とは?」
ふと「気になった……」と言う様子で、刹那はそう尋ねてきた。
「どう……とは?」
「いやさ、今までも『カード』は集めていたわけじゃん。そのカードって、瞬が持っているのかなぁ……って思って」
まぁ、今までそういった話にならなかったから話さなかったんだが……。
「……それは違うと思うのだが」
「あっ、やっぱりそうなのかな?」
「いや、俺はそう思っているだけなんだが……どうなんだ? 瞬」
「…………」
正直「どうなんだ」と聞かれても……と言いたいところだが……というか、龍紀の言っているのが『答え』だ。
「はぁ、今までのカードは『全部』空に渡してある。俺が持っていてもどうしようもないと思ったからな」
「ふーん。まぁ、そうだよね。ただ……今はそれも少し考えた方が良いかも知れないね」
刹那としては、俺を気遣ってそう言ってくれたのだろう。
昨日の千鶴さんの話でも「空は母さんの実家と関係があるかも知れない」と言っていた。
実際、空自身の口から『自分に関する事』はほとんどどころか、何も聞かされていないようと思う。
ただ、今の状態は『空は母さんの実家と何かしらの関係がある』という可能性が非常に高い。
そんな彼女に今までと同じようにカードを渡して良いのだろうか……今まで通りにしていては『彼らの思うツボ』と……刹那は言いたかったのだろう。
「……」
俺は、刹那の発言からそう感じたのだが……。
「しかし、カードがないと彼女と会う事も出来ない……」
「ああ」
そもそも空がいつもどこから現れるのか、俺は全く知らない。
しかも、彼女が現れるのは大抵「どこかで見ていたのか?」と聞きたくなるくらいいつもタイミングよく『カード』の存在を疑った時だ。
その時でないと彼女には会う事すら出来ない。
「まぁ、そういう状況じゃどうしようもないよね。たとえこっちがカードを集めないとしても『カードがないと彼女に会えない』って根本的なところがどうしようもないから」
「……」
そう、俺が『カード』を集めなければ彼女は現れない。現れないという事は、話を聞くことも出来ないというワケである。
「せっかくお兄さんからの連絡手段をもらっても、彼女には使えないってワケだ」
「……知っていたのか」
「うーん、なーんとなく? 手紙で連絡を取り合っている割には、情報の伝達が早いなぁと思って」
「……………」
確かに、いくら手紙で兄さんと連絡を取り合うことが出来ると言っても、やはり限度がある。
昨日千鶴さんと会ったというのに、まるで兄さんが知っているかのような『手紙』を送ってくるのはおかしいと思ったのだろう。
まぁ、兄さんなら……と以前の俺なら思ってしまっていたかも知れないが、いくらなんでもそれはおかしいか。
そこまでいってしまうと、もはや『未来予知』と変わらない。
「……とは言っても、俺も昨日もらったばかりだ。正直、電話のやり方くらいしか分からない状態だ」
「えっ、それってひょっとして……メールも送れないって事?」
「…………」
さすがに俺がここまで「ヒドイ」とは思っていなかったのか……というか、完全に刹那も龍紀もドン引きしている。
「……言っておくが、授業で習った『パソコンを使って』ならまだ送れる。ただ、スマートフォンの使い方は授業でやらないだろ?」
ここ最近、スマートフォンを使った事件などが多発している事もあってか学校でも注意される事が多くなった。
しかし、俺にはそんな話は今まで無縁だった。なぜなら、そもそも使い方どころか持ってすらいなかったのだから。
「いや、そりゃあ授業ではやっ、やらないけど……」
刹那は「珍しい人間がいる」という様子を見せていたが、すぐに『何か』を思い出し、深くため息をついた。
「……仕方ないか」
「ああ、そういえば瞬の家にはそもそも『電話』すらなかった。しかも、今までは『手紙』でお互い連絡を取り合っている。そんな状況でいきなり『スマートフォン』を渡されても、授業ですら使った事がなければ、困惑するのは当然だな」
ここまで丁寧に分析しなくても……と思ったが、理解の早い友人で本当に助かる。
「それで、申し訳ないんだが……」
「分かっているって、使い方のレクチャーが必要というワケだろ? 任せろ」
「……当然分かっていると思うが、授業中は使うなよ?」
サラッとこういったコメントが出るあたり、さすがは生徒会長というところだろうか。
「ははっ、分かっている」
俺は小さく笑い、早速刹那から簡単な……それこそ基本的な操作方法のレクチャーを受けた。
……本当、何も分かっていない状態で『フリック入力』なんて言われても……正直、戸惑う。
「あー、違うって! こう!」
「こうか?」
「それはただ叩いているだけだな」
「うーん?」
今まで、そういったタッチパネル式の操作は全部やってもらっていた。それがこんな形で自分に返ってこようとは……思いもしなかった。
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