第16章 獅子座

第1話


「そもそも僕がじいさんと瞬を『似ている』と言ったのは『考え方』というか」

「考え方?」


「まぁ、爺さんほど『疑り深い』って事じゃないよ」

「……」


 兄さんは「勘違いしないでね」と言いたそうな表情で両手を左右に振った。


「そうじゃなくて、瞬は僕を『人の心が読める人』って思っているでしょ?」

「え……」


 俺は兄さんの言葉に驚愕した。だって、俺はそう思って今まで……いや、今でもそう思っている。


 だからこそ、簡単には兄さんの言葉を信じられそうにない。むしろ「そう言って俺を騙そうとしている」とすら思っているほどだ。


「そもそも瞬がそう思うようになったキッカケって……何?」

「そっ、それは……」


「もしかして父さん。いや、じいさん……とにかく人から聞いたんじゃない?」

「……」


 断言するように言われ、俺は言葉に詰まった。


「……」


 なぜなら、兄さんの言うとおりだったからだ。刹那もそんな俺を心配そうな表情で見ている。


「断言するけど、僕はそんな事。出来ないよ」


「……」

「……」


「僕はただ人が何を考えている……とか、どうしたい……とか『頭』で必死に考えているだけだよ」


 そして、その事を本人よりも先におこなう事で『人の考えが読める』様に見えていただけ……。


「じいさんは『疑り深い性格』だからね。そんな僕を牽制……いや、棄権視したんだろうね」

「じゃあ、あなたが軟禁状態になったのは……」


「僕がまだ幼かったからね、そうする事で自分の手元に置いておきたかったんじゃないかな」

「でも、そうする為には……色々大変なんじゃ」


 そう、刹那の言うとおりだ普通に考えれば「あり得ない」話である。しかし、この家で『爺様』はそれがまかり通ってしまう。


 ――それくらい『絶対的な存在』だったのだ。


「まぁ、じいさんがどうやってそんな話を広めたかは知らないけど、とにかく瞬はずっとその話を信じたワケだ」

「……はい」


 普通であれば信じられない話。でも、その当時の俺も幼かった。


 その当時の俺にとって、大人……特に祖父や両親など親族の言葉は絶対に聞こえていた。


 でも、それなのに……あの時、母さんからの言いつけの言葉は忘れてしまったが――。


「……」

「瞬、大丈夫?」


「あっ、ああ……」


 心配してくれる刹那には悪いが、この時の俺は全く大丈夫じゃなかった。


「……えと、刹那……くん?」

「はっ、はい?」


「今日はここに泊まって行くといいよ」

「えっ」

「……!」


 俺は「突然何を言い出すんだ?」と思った。しかし、壁にかかっている時計はお昼をとうに過ぎ、もうすぐ夕方になろうとしている。


「いつ吹雪になるか分からないし、電車が止まるかも知れないからね」


 確かにここは山の中だ。しかも、冬の山は天気が変わりやすい。早めに行動するのは悪くないだろう。


「あっ、なるほど。じゃあ……」

「そうだね」


「じゃあ、決まりだね。宗玄さんに伝えてくるよ」


 そう言って兄さんは、何やら嬉しそうに部屋を出て行き……俺と刹那は二人……いや、ヘラクレス座もいたから『三人』取り残されたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る