第2話


 その帰り道――。


「はぁ……」


 俺は『小林こばやし龍紀りゅうき』という人物について考えていた。


 確か、彼を最初に見たのは『入学式』だったはずだ。しかも、その時から彼はかなり目立っていた様に思う。


 そして、その時はただ『見た目が派手』なだけで、無事に入学したのだけれど……。


 その後も彼は『目立っていた』のだが……それは決して『いい意味で』というワケではなく……かなり『悪い意味』で……だった。

 髪の色は金髪だったし、体格がいいのか縦にも横にも大きい。ただ『太っている』という意味ではなく、なんというか……ガッシリとしている印象だ。


 だからなのだろうか、その体格の良さと見た目の派手さが相まって周囲の人は、「なんか喧嘩とかしていそう」と思うらしい。


 俺も、当初は恥ずかしながらそう思っていた人間だった。


 そう思ったのは、当時の彼の顔には常に絆創膏があったり下手をすればその絆創膏すらなく、生傷を作ったまま学校に来たりもしていたからだ。


「あれ、でも……」


 思い返すと、一年の一学期の頃はたくさんの傷を作って多少遅刻することはあっても、彼が学校を休んだ事は……たった『一度』以外なかった。


 そして……その『たった一度の休み』の後、彼は今の様な『模範生徒』へと変貌を遂げたのだ――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「でも、小林に一体何が………?」


 ただ、彼が『その事に関して』何も……いや、誰にも言っていない。何があったとか、どうして休んだとか……。

 なんで人が変わったように『模範生徒』になったのか……とか、どうしても今の彼は『ひたむき』とか『必死』な様に見えてしまう……。


「……」


 考えたところでどうしようもないのは、分かり切っている。でも……それでも、知っておいた方がいいと思っている自分がいる。

 どうしてかは俺でも分からない。ただ、今の彼をこのまま放って置くのは……なんと言えばいいのだろうか……危ない気がするのだ。


「…………」


 ふと小林から感じた『感覚』が……どこかで感じたような気がする。


「…………」


 でももし、この『感覚』が『アレ』によるモノだったとしたら……一体いつ、小林は……いや、小林自身は気がついていない可能性もある。


 もし、そうだったとしたら……一刻も早くしないと……空に会って聞いてみなければいけない。


「……って、あいつがどこにいるか俺、しらねぇよ」


 そう吐き捨てるように言いながら、カバンを持っていない方の手で頭をかきむしり、ふと空を見上げると――。


「知らなくても大丈夫」

「……うわっ!!」


 突然聞こえた声に思わずのけぞってしまった……。


 そう、ふと見上げた視線の先には…点星川ほしかわそらが積み上げられた石垣の上にちょこんと腰かけていた。


「まぁ、それはそれとして……どういう事だ?」

「言葉の通りの意味」


 俺の問いかけに空はそう断言した。


「いや、それがどういう意味なのか……というよりも」

「??」


「そこから降りてくれないか? 首が痛いんだが」

「…………」


 石垣の高さは俺の身長よりも高く、空と会話をしようと思うと、どうしても首を上に向けなくてはならない。


 それがとても……辛かった。


 身長の高い男子を見上げ、「首が疲れる」と言っていた女子の気持ちが何となく分かったような気がした。


「今日……学校の方から『カード』の気配を感じた」


 最初、空はムッとした表情になった様に俺には見えたが、すぐに無表情になり、石垣から降りた。


「……そうか。ところで、学校の敷地内には入ってないよな?」

「……」


「入っていないよな?」


「……前に注意されたから、入ってはいない。だから、この気配が『誰から』っていう肝心な事は分からなかった」

「おい、誰って言う事が分からないのに……なんで『カード』のせいだって断定できるんだ?」


 空の言葉の通りであれば、肝心の『誰』という分かっていないという事になる。しかし、先ほど空は「俺が小林龍紀が気になるのは『カード』のせい」と断言したはずだ。


「……それは、あなたが『カード』の雰囲気を何となくでも感じ取りやすくなったから」

「感じ取りやすくなった?」


「うん」

「……」


 要するに、小さい頃。俺が『霊の姿』が徐々にを見るようになったような感覚と似たような感じだろうか。


「多分、あなたは『雰囲気』を感じ取る『感覚』が鋭いんだと思う。だから、この『カード』が放つ独特の雰囲気に『慣れて』きているんだと思う」

「…………」


 ただ空曰くあくまで『慣れてきている』というだけで、まだ完全に感じ取れているわけではない。


 だから、俺はただ「何となく気になる」と思うくらいにしか感じないのだという。


「そっ、そうなのか……俺はただ……ここまで気になるのはただの『お節介』だと思っていた」

「お節介なのは、私と会う前からだと思う」


「えっ」

「……自分で気が付いていない?」


 そう言われてようやく気が付いた。


 ――結局のところ、俺は昔から『お節介』だったのだろう。それこそ『霊』が見え、自分で考えて行動出来るようになってからやり始めた『手伝い』も……。


 思えば刹那との出会いも……あのいじめっ子に声をかけたのも言ってしまえば『お節介』になる。


 だって……放っておくことも出来たのだから。


 いつから俺が『お節介』になったのかなんて分からないし、覚えていない。でも、今も覚えているのはこの『お節介』がなければ……俺の人生はもっと違っていた……という事だ。


「…………」

「とりあえず、その『少年』をちゃんと見ておいた方がいい。近いうちに『何か』変化が起こる」


 それだけ……それだけ下を向いて地面を見つめている俺に伝え、顔を前に向けた時には……空の姿はどこにもなく、俺の目の前には電柱が立っているだけだった。

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