第6話


「最初は、最初に始めた時は『善意』だったんだろうね。普通に困っている人を放ってはおけない……ってヤツで」

「…………」


 今の世の中はそういった『霊』や『悪霊』も信じられていない……とまではいなかなくても、昔ほど信じられてはいない。


 ただ、昔……どれくらい前かはさすがに分からない。だが『陰陽師』という単語が出てくる辺り、相当昔ではあるはずだ。


 その頃は今とは比べ物にならないほど信じられていたに違いない。それこそ「自然災害があったから……」とか、もっと簡単な出来事が原因で「縁起が悪い」と言って元号が変わるくらいである。


「今は色々な『手』を使って『証明』しようとするからねぇ。まぁ、なんにしてもその当時もそういった『お祓い』が出来る人っていうのは珍しかったんだよ」

「なるほど。それで最初は無料で……というか、普通にお祓いをしていた……というワケですか」


「うん。でも、その『善意』に欲がはらみ始めると……」

「だんだん歪みが生じてきた……と」


「それを考えると母さんの実家はどちらかというと、僕たちみたいに商売での『お金持ち』というよりかは、昔ながら『名家めいか』と言った方が正しいかもね」

「…………」


 自分自身で『お金持ち』というのもどうかと思うが、間違ってはいないので訂正はしない。


 しかし、兄さんの言っている事は間違いないのだろう。


「空ちゃん……だっけ? 多分、周りからは『名家に引き取ってもらえる』というのは、むしろ羨ましい様に見えたかもしれないなぁ」

「…………」


 それでも、自分自身が消えてしまうのは嫌だろう……なんて、周りはこれっぽちも知らないか。


「とりあえず、母さんの実家は『昔ながらの名家』で、そのカードの女の子はその家が経営していた『孤児院の出身』という事」

「それで、その孤児院でのテストであいつは結果を出してしまい、関係者に引き取られた」


「どうして彼女が選ばれたのか……というのは、謎なところではあるけどね。分かっているのはここ最近、その家がカード探しを本格的に始めたって事くらい」

「それってつまり?」


「つまり、瞬の知らないところでカード探しをしているって事」

「……じゃあ」


 俺はお役御免という事なのだろうか。


「もしかしたら、ある程度カードの枚数が集まった事でその空ちゃんが『カードのありか』を探知出来るようになったのかも知れない」

「え」


「探知さえ出来れば、後は自分たちで無理やりでもカードに戻せばいい。それくらいの『力』を持った人間はあの家にはごまんといるって事なんだろうね」

「…………」


 じゃあ、俺は……やっぱり利用されていただけなのか。それを思うと、悔しいとか、怒りとかそんな感情よりも、むなしいという気持ちの方がまさった。


「……ただ、その彼女の気持ちまでは分からない」

「え」


「もしかしたら、ただ従っているだけなのかも知れない。それ以上に『カードたち』自身が、あの家に対して協力的じゃない」

「…………」


 言われてみれば、あの時対峙した『烏座』も相当母方の実家に嫌悪感を示していた。


「なんにしても、ここでショックを受けている暇はないって事だよ……というワケで、コレ」

「なんですか?? コレ」


 そう言って差し出されたのは、一枚の『紙』ではなく……。


「っ! コレ。カード」

「瞬が吹き飛ばされてすぐ、近くにいた龍紀くんのポケットに逃げ込んだみたい」


 兄さんはそう簡単に言ったが、あの騒ぎの中。


 よく咄嗟にそんな行動が出来るなんて……と思ったが、そこまでして『烏座』は、あの家に行くのを嫌がった結果なのだろうと納得してしまった。


「後。これは瞬の横にあった……って、渡されたんだけど」

「??」


 兄さんはもう一枚、俺に『カード』を差し出したのだが……それは『乙女座』のカードだった。

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