第2話


「はぁ……」

「珍しいね。瞬が、遅刻ギリギリなんて……」


 机に突っ伏している俺に対し刹那は心配に声をかけてきた。


「何かあった?」

「……いや、今日は特に『あいつら』は関係ない」


「そう? じゃあ、明日は嵐にでもなるのかな?」

「……それは困るな」


「そうだよね」

「それにしても……朝に変な夢を見ていた気がしたんだが……」


「夢?」

「ああ。だが……」


「だが?」

「その内容……忘れた」


「……本当に今日、大丈夫?」

「大丈夫ではないな」


 俺の回答に、刹那は重ねて心配してきた。


 まぁ、朝からベッドに落ちる……といったことと遅刻ギリギリという滅多にないことが重なった事もあったせいか、朝は覚えていたはずの夢の内容を今ではほとんど覚えていない。


 でも、夢で見た事なんて大概忘れてしまうモノだ。そんな事をいちいち気にしているほど、暇な訳でもない。

 ちなみに、俺の言った『あいつら』とは『幽霊』のことだ。

小さい頃から俺は『幽霊』が見えていて、最近では『幽霊』の願いを叶える除霊のようなことをあくまで自己満足でしている。


「ん……?」

「どうしたの?」


 なぜか今日はクラス中が騒がしかった。


「いや、なんか……今日は騒がしいな」

 心当たりを頭の中で探した。しかし、思い当たる節がない。

「ああ……それは」

「修学旅行だな」


 そう言いながら俺達に近づいて来たのは生徒会長の玉村たまむら龍紀りゅうきだった。


「おっ、龍紀じゃん。おはよう」

「……おはよう」


 俺たちはその姿を見るなりすぐに挨拶をした。


「おう、おはよう」


 龍紀も即座に返してくれた。


 俺たちは生徒会選挙を通して、準備やらなにやら……というか、俺は成績のヤバい刹那と「お前も友達だろ」と半ば強引に教師に押し付けられただけだと思うが、手伝った時、友達になったのだ。


 正直、あの時が初めて会話をした訳だったが……意外に準備などは楽しかった。


 そして、俺はもちろん。刹那とも龍紀はすぐに打ち解け、今に至っている。高校に入学した当初はかなりやんちゃだったらしいが、今はそんな事もなく、随分落ち着いている。


「修学旅行?」

「そうだ」

「…………」


 もう……そんな時期だったとは、時間が経つのはものすごく早い。いや、ここ最近は特にそう思う。


 ちなみに普通の高校では大抵二年の秋に修学旅行に行くらしいが、俺たちの通う高校では二年の冬の、しかも十二月の中旬に行く。

 なぜこの時期なのかは生徒の中で知る人は……いないが。まぁ、学校側の事情ってやつだろうということで誰も深く考えてはいない……というのが本音ではないだろうか。


 でも、別に「行かない」とは言っていないから特に文句が出たことはない。文句が出たのは……修学旅行先とか料理ぐらいだ。

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