第19章 小犬座
第1話
「……えと」
「出ればいいだろ。普通に」
何を思ったのか、電話に出るのを渋っている刹那に俺は呆れ顔で答えた。
「そっ、そうだよね!」
なぜわざわざ俺の意見を欲したのかは分からない。だが、刹那は俺の答えを聞くと、さっきとはうって変わって意気揚々と電話に出た。
「……」
「……」
「……なんでしょうか」
「いや、逆に何がだ」
「電話の内容。一応、連絡先は聞いていても、あの修学旅行の後、全くと言っていいほど音沙汰がなかったので……なぜ、今」
「……さぁな」
確かにあの修学旅行行こう、実苑さんたちから連絡なんて今まで一切なかった。それなのに……である。
「…………」
――何か嫌な予感がする。それに……胸騒ぎもする。
もしかしたら……何かあったのかも知れない。聡さんが電話をかけてきているのなら、失礼ながらまだ分かる。
だが、電話の相手が『実苑さん』というところを考えると……。
「……聡さんの身に何かあった……という可能性があるな」
「えっ、でも……あの人は」
俺も空の言いたい事は分かる。
聡さんは『実苑さんのサポート』という形とはいえ、普通の人と比べると、強い人のはずだ。
「でも、コレは俺の憶測でしかないが、もしかしたら実苑さんはここ最近聡さんの姿を見ていないんじゃないか?」
「…………」
もちろん、俺はあの人たちがどれくらいの頻度で会っているか……なんて知らない。
でも、実苑さんがまだ学校にいるであろうこの時間に電話をかけてきた……という事を考えると、筋は通りそうに思うだ。
「確かに。この間会いましたが、あの聡さんという男性を見た限り、色々とマメな人だろうという事は感じていた。ただ、そんな人が連絡も何もなしにいきなり姿を消した……となれば」
実苑さんが必死になって探すのも分かる気がする。
「多分、心当たりのある場所や人は全部探した……ってところだろうな。そうじゃなきゃ刹那に電話をかけている意味がない」
「警察に連絡とかしないのかな……」
「さぁな、それぞれの家の事情は俺も知らない。でも、それは本当に最後の手段ってところなんじゃないか?」
そうなる前のそれこそ刹那は『頼みの綱』という状態なのだろう。
「……」
「……」
だからこそ、二人の電話の内容がかなり気になる。
「……分かりました。はい、はい。それでは」
「……」
「……」
「瞬の言うとおりだよ」
「ん?」
「ここ数ヶ月、姿どころか連絡が取れなくて、こっちに聡さんが来ていないか……って、今連絡があった」
「…………」
「…………」
小さくそう呟いた刹那の言葉に、俺も空も何も言えず、沈黙が流れ……そして、昼休みの終わりを告げるチャイムがそのまま鳴り響いた――。
まぁ、結局のところ。俺と刹那は自動販売機には行けず、刹那におごらずに済んだのは……言うまでもない。
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