第9話
「それにしても……」
刹那はそう言いながら、テレビの置いてある『カード』を手に取った。今更ながらではあるが、俺がいる部屋は『個室』だ。
まぁ。だからこそ、さっきの兄さんとの会話も聞こえてはいても「誰かと会話をしている」程度にしか聞こえなかっただろう。
「ん? どうした?」
「いや、なんで『乙女座』なのかなぁ……って、思ってさ」
「?? なんで……って、俺に聞かれてもな」
「ははは、確かに。瞬は寝ていただけだからな」
龍紀も俺の言葉に賛同してくれた。
「まぁ、でも。何か『理由』がある……と考えても、悪くはないだろうね」
「兄さん?」
「だって、瞬が寝ていた時に見ていた『モノ』は……この『カード』が見せていた……って考えても不思議じゃないだろ?」
「分かっていたんですか。俺が『夢』を見ていた……って」
「うーん、確証はないけどね。でも、僕と話をしていた時。特に驚いた様子がなかったからさ。もしかしたら、最初から『どこか』で知ったんじゃないか……って思えてさ」
「…………」
確かに、さっきまで兄さんと話していた内容は、俺が眠っていた時に出て来たモノを裏付けるようなモノばかりだった。
しかし、もし俺が何も知らない状態であれば、もう少し違った反応をしていたに違いない。
例えば『空が孤児院出身』とか――。
でも、俺はあまり反応をしなかった。だから、兄さんはそう考えたのだろう。
「まぁ、瞬が見ていた『夢の内容』は……」
「この『乙女座のカード』が『瞬に夢を見せていた』というのであれば、何となくどういったモノか分かる……というワケですね」
刹那と兄さんはどうやら『乙女座の由来』をどうやら知っている様だ。もちろん、俺も知っている。
「……」
「……」
――知ってはいるのだが。どうしてそれが『俺が見ていた夢の内容』に繋がるのか分からない。
龍紀に至っては『乙女座の由来』について何も知らない。
ただ、龍紀に一言だけ言えるのは「安心して欲しい。知らないのが普通だから」と――。
「……二人は、どうやら分かっていない様だけど。そもそも『乙女座の由来』には『コレ!』というモノがない。それも特徴の一つなんだよ」
「それで、その中の一つに『デーメーテールまたはペルセポネーとする説』があってさ」
刹那が言うその『説』とは、豊穣の女神デーメーテールの娘ペルセポネーは、妖精と花を摘んでいる際に冥神ハーデースに略奪され妻となった。
しかし、母デーメーテールが激怒したため、大神ゼウスはハーデースにペルセポネーを天界に帰すように命じ、ペルセポネーは天界に戻った。
だが、冥界のザクロを口にしていたため、年のうち八ヶ月は天上で、残り四ヶ月は冥界で過ごすこととなった。
「その乙女座が天に上がらない四ヶ月の期間が出来、穀物の育たない『冬』が生まれた……とも言われているね」
季節の『冬』が生まれた理由にまで関わっている事には、俺もコレを知った当初コレには驚いた。
ただ、どうしてそれが『夢の内容』に関わってくるのだろうか。
「実はね。その瞬が言っている少女、どうやらこの話に出てくるペルセポネーの様に一年の内、引き取られた家にいたのは数ヶ月。残りの大部分は両親どちらかの祖父母の家にいたらしい」
「……」
「むしろ、ずっと家にいるのは迷惑だろう……という事で、学校から帰ったら大体は育った孤児院に手伝いがてら行っていたみたい」
なるほど。だから、ほぼ毎日のようにあの孤児院で空の姿を見かけたのか。
「それで、瞬が巻き込まれた『儀式』の数ヶ月前にその優しく接してくれていた祖父が体調を崩してしまったらしくてね。年齢の事もあったし、何よりその子は『自分の存在』を示せるチャンスとも思ったんじゃないかな」
「…………」
兄さんの言っている事の後の部分は、何となく察しが付いていた。
しかし、最初の『体調を崩していた』という事までは知らなかった。でも、これで彼女の暗かった表情の意味も理解出来る。
「……で、その彼女の話だけど……実は、ちょっと厄介な事情が発生してね。それで、二人にも聞いてもらおうと思って待っていたのさ」
「俺たちも……」
「ですか? 瞬だけじゃなくて?」
二人は驚きの表情だったが、事情を知っている宗玄さんは無言のまま深刻そうな表情を……いや、いつも通りに見えなくもない。
でも、兄さんがここまで言うのだから、本当に『厄介』なのだろうと思った。
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