星を紡ぐ少女

第10話

「厄介……ですか？」

「うん」

　そう切り出したのは、刹那だった。そして、兄さんはその言葉にすぐ頷いた。

「それは一体どういう……？　刹那はともかく、見えもしない自分も関係があるとはとても思えないのですが」

　コレは、龍紀の言葉だ。

　俺や刹那は『見える人間』だが、さすがに『見えもしない感じもしない』自分が関わるとは、到底考えられなかったのだろう。

「ああ、うん。コレは『カード』とか、そういった『類』の話じゃなくてね」

「……兄さんにしては珍しく言葉を選んでますね」

「なっ！　いくら何でも失礼だよ、瞬！　僕だって色々考えているんだから」

「それは失礼しました。でも、今更言葉を選んでも俺がいる時点で、取り繕う事なんて出来ませんよ。刹那も一度兄さんと会っていますし」

「それは……そうなんだけどさ」

　兄さんとしては、威厳のある人間に見せたかったのだろう。

　だが、残念ながら刹那にしろ俺にしろ兄さんの言動は知っている。龍紀にそんな見栄を張ったところで、どうせすぐにボロが出てしまうに違いない。

「はぁ、まぁいいや。とりあえず用件だけ言うとね。今回の一連の話、どうやら爺さんが関わっているかも知れない……って、言うんだよ」

「……！！」

「爺（じい）……」

「さん？」

　俺は兄さんの発言に驚きを隠せなかったが、刹那と龍紀はこの発言の『意味』が分かっていないようだ。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。爺さん……って、あの？」

「ああ、あの爺さんだ」

「？？　瞬、どうしたの？」

「爺さん……と言うことは、瞬の祖父に当たる人……だよな。その人がどうかしたのか？」

　二人が理解出来ないのもよく分かる。今まで俺は極力『爺さんの話』はしてこなかった。

　いや、したとしても兄さんが軟禁された時にそれをした『人物』としてしか説明していなかった。

「あれ、ちょっと待って。母方の実家の話は今まで散々してきたけど、今話している『祖父』ってひょっとして……」

　ここでようやく気がついたのか、刹那は記憶を辿るように視線を上へと向けた。

「ああ、うん。その『祖父』で会っているよ？　父方の祖父。僕を軟禁してくれた人だよ」

　兄さんの表情は笑ってはいるが、どうにもそれは『張り付いた』という表現が似合うような『笑顔』だった。

「あれ、でもその人って確か……」

「うん。僕と瞬も亡くなっているって認識していたよ」

　そう、爺さんと父さんも母さんもすでに亡くなっている。祖母は、兄さんが生まれるもっと前。父さんが幼い頃にすでに亡くなっているから、顔すら分からない。

「認識……って事は、まさか！」

「ああ、龍紀。そのまさか……って、兄さんは言いたいらしい」

　俺がそう言うと、兄さんは『笑顔』を浮かべて頷いた。

「うん、どうやら『あの爺さん』まだ生きているみたいなんだよ」

　兄さんはそう言って首を軽く傾けた。その姿はまるで「まいっちゃうよね」とおちゃらけて言いたそうにも見えた。

　でも、そんな言い方しか出来ないくらいに、兄さんの心の中は『呆れ』の感情が渦巻いていたに違いない。

　なぜなら、爺さんが亡くなったとされている『事故』で……父さんも亡くなっていたのだから。