第8話


 当初。俺と兄さんは二人が戻り次第医者を呼ぶつもりだった。


 しかし、少し待っても戻る気配がなく、仕方なく兄さんは『ナースコール』を押した。


 そして、一通りの説明を受けたのだが……。


 どうやら、俺が起きていたのは呼ぶ前からバレていたらしく「起きたのであれば、すぐに呼んでください」とちょっとキツめの注意を受けた。


 まぁ、コレは完全に俺たちが悪いから文句の言いようがない。起きたらすぐに呼ぶべきな話である。


「それにしても、二人とも遅いね」


 そう、そもそもの話。刹那と龍紀が早く戻って来てくれれば……とも思ったが、すぐに「二人がいたらいたで、さっきの話が出来なかったよな」と考えると、怒る気にもならない。


「瞬、連絡すれば良かったのに」

「……正直、病院でメールをしていいのか判断に困りました。それに、俺の片手。今は動かさない方が良いらしいですし」


 病院には様々な人が来る。


 だから、俺がメールをした事でその電波とか電波とかそういった人たちに何か影響がありそう……と考えたのだ。


それに、そもそも片手でメールを打つ事……いや『メール』自体に慣れていないから、最初から『二人に連絡する』は選択肢に含まれていなかったのだが……。


「いや、それにしてもさ……ん?」


 何かを言おうとしたところで、兄さんは何かに気がついて言葉を止めた。


「兄さん?」

「どうやら……帰って来たみたいだね」


 そう言って兄さんは、ドアの方をニヤリと笑った。


「……あ」


 兄さんの言うとおり、刹那と龍紀は普通に売店から戻って来た。


「しゅ、瞬……」

「…………」


 俺が起きている事に気がついた二人は、驚いたままドアを開いたまま立ち尽くしている。


「……」

「……」


 二人は無言のまま立っているが、その手には売店で購入したであろう袋がぶら下がっている。


「よっ、よぉ」


 さすがにこのまま無言のままお見合い……というワケにもいかず、俺は軽く折れていない方の手を挙げ、いつもの様に声をかけた。


「えっ、もう……」

「大丈夫なのか?」


 二人は驚きの表情のまま、俺の元へと歩いてきた。よく見ると、宗玄さんも二人の後ろにいたらしく、同じような表情を浮かべている。


「大丈夫かって聞かれると、正直微妙だな。片手折れちまったみたいだからな」

「あー」

「それは……」


 俺が吹っ飛ばされた時の状況を知っている二人は「それは仕方ない」という様子だったが、宗玄さんはいつもと同じように『無言』だった……のだが、どことなく『怒りのオーラ』が見えたような気がした。


「それにしても、随分売店で時間かかっていたみたいだね」


 兄さんは俺たちの会話を少し聞くと、刹那と龍紀。そして、宗玄さんに尋ねた。


「申し訳ございません。どうやら現在、こちらの病院で催しモノがあったらしく、それに参加された方などが昼食を買いに売店を利用しまして……」


「それで、会計に時間がかかっちゃってね」

「一人一人バラバラに並ぶよりは……という事で、とりあえず一旦宗玄さんに全部払ってもらって後で自分たちの分は払うって形にしたんだが……」


「それでも時間がかかった……と」

「同じように考えて数人分まとめて買ったり、機会が故障して会計が止まったりとまぁ、大変だったわけ」


「それは……大変だったね」

「…………」


 宗玄さんが会計をしている間、二人は週刊誌の立ち読みをしていたらしいが、一通り読み終えても、まだ会計が終わっていないほどだったらしい。


「でも、よかった。目が覚めて」

「それに、お二人が来ているタイミングだったのもよかったです。何か事情がありそうだったので」


 どうやら、刹那も龍紀も兄さんが何か事情があって俺を訪ねてきた……という事は知っていた様だ。


 でも、まさか「自分たちも関わりがある」とまでは知らない様子だった。

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