第10話


『海蛇座』


 海蛇座は星座のイメージからすると、大蛇のようだがギリシャ神話に登場するのは、九つの頭を持つ『ヒドラ』という水蛇のような怪物。


 英雄と言われたヘルクレスは、彼に科せられたの十二の冒険の二番目に、レヌエア地方のアミモーネの沼に住むヒドラ退治に出かけることになった。


 そして残った首領の首は不死身だったのだ。そして、ヒドラの血は猛毒で、その血を浸した矢を持つヘルクレスは、以後天下無敵となったのだ……。


 ……やっぱり、『ヘラクレス』が出てくるのか。


 俺は本を見ながらそう思った。


 ギリシャ神話でいけばつまり俺は『蟹座』で、夢は『海蛇座』という事になるのだろうか。


 そして、兄さんは『英雄 ヘラクレス座』だとして、黄道十二星座と呼ばれるのは『蟹座』である。


「………………」


 なるほど……そういうことか……。


『あの……、どうかされましたか?』


 突然黙り込んでしまった俺を『幽霊』は心配そうに話しかけた。


「いや、少し分かったことがあって……な」

『???』


 その『男子』は何の事か分からない……と不思議そうな顔をしている。


 この『男子』とはここで初めて会った奴だ。この子が決して悪いという訳ではないが、星川空の探し物の……あの『カード』の存在を知るはずがない。


 でも、教える訳にもいかない。


「……」


 ただ、兄さんが……なんで俺に『蟹座』を送ったのか……。


 でも『理由』が分かったとしても、兄さんは一体どこで『カード』の事を知ったのだろうか……とか、いつから知っていたのか……など、考え出したらきりがないほどどんどん疑問が出てくる。


 一度探りを入れる……なんて事が出来れば苦労しないというか、そもそも兄さんにそれが通用するはずがない。


 兄さんは目の前にいる人間の『心を読む事』が出来るのだから。


『あの、大丈夫ですか?』

「ああ……。ところで……」


『なんですか?』

「この本、俺が帰るまで俺が持っていても……いいか?」


『えっ?』

「……」


 俺の突然の申し出に『幽霊』は困惑した表情で俺の方を見た。


「いや、やっぱりダメ……だよな」


 俺は自分で言った事をすぐに取り下げようとした。


 ついさっきまで「好きにすればいい」とか言っていた人間が何も言わず、突然「持っていてもいいか……」いくらなんでも虫が良すぎる。


『……』


 だが、その『男子の幽霊』は最初、困惑した表情だったものの、最終的には「いいですよ」と言ってくれた。


「いっ……いいのか?」

『元々、ここの本ですし……。あなたが読んでいない間は僕が読んでもいいんですよね?』


「あっ、ああ……」

『だったらいいです』


「そっ……そうか」


 俺は内心ホッ……として本を閉じた。


『……?』


 そんな俺の顔を笑顔で見ると……そのまま本棚に飾ってある写真立ての方へと視線を向けた。


『可愛らしいお嬢さんですね』


 すぐ目に入ったのはどうやら妹の『夢』だったらしく『幽霊』は呟くように言った。


「ああ、大事な妹……だ」


 しかも……兄さん溺愛の……な。


 なんてそうそいつに悟られない様に心の中で「もういない」という言葉もついてでに付け加えた……。

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