第9話


『……?』

「聞こえなかったのか?お前だよ」


『えっ! 僕が……』

「見えてなかったら声をかけないだろ……」


 そこには俺と同年代の男子が立っていた……。


 しかし、まさか自分が見えているとは思っていなかったらしくかなり動揺している様だ。


「とりあえず、単刀直入に聞く。お前は誰だ?」


 俺は当然で当たり前の事を聞いた。どんな奴にしろ、そいつがどんな奴か分からなければ話も分からない……。


『……』


 いきなりそう問われてその『男子』は驚いたようにその場で固まった。


「はぁ……」


 実のところ、俺は生きている人間と話すことは苦手ではあるが、『幽霊』なった人間とは何の抵抗もなく話せる。


 もし、何か理由があるとすれば……。


 多分『幽霊』になった奴は基本的に目的に忠実だから……とでも言えばいいのだろうか。


 もちろん、悪い『幽霊』もいる。そういう奴らは『悪霊』と呼ばれ、お祓いをし、成仏させるのが一般的だ。


 でも、それが出来るのはごく一部の人間……俺が知っている限りでは……折里おりさと実苑みおんさんだけである。


 黒見里くろみさとさとるさんはせいぜいその『お祓い』の補助程度……って自分で言っていたから除外だ。


『あ、えっと……あの僕はその本を取りに来たんです』

「本?」


『はい……』


 そう言って男子は本棚を指した。


「……」


 俺は男子が指した方向を見た。そこには、『星座神話』の文字がある。


「こんな本……俺の部屋にあったか?」


 正直、俺には全く覚えがない。


 だが、どうやら男子がこの本を目的としているのであるならば、それを否定する理由はない。現にその本はここに存在している。


「……で、君はこの本を取りに来たんだな?」

『はっ、はい』


「……なるほどな」

『あっ、あの……』


 男子はオドオドとした様子で俺の様子を窺っている。この後俺がどう出るのか気になるのだろう。


「……」


 でも、俺自身この本に覚えもないし、置いておいてもどうしようもない。それならば欲しい『人間?』に渡した方が良いだろう。


「ほら」


 とりあえず俺は本棚から『星座神話』を取り出し、その『男子』に渡した。


『あっ、ありがとうございます』


 俺から本を受け取ると、男子は物腰柔らかく丁寧にお辞儀をしながら感謝した。


「……」


 でも、渡しておいてなんだけど……正直俺はその本の中身が気になる。


『……』


 どうやらそれが男子にも伝わっていたらしく……。


『……読みますか?』


 そう俺に提案した。


「……いいのか?」

『はい。僕は全然構いません!』


 本当に……元気な男子だ。そんな男子の元気な返事を聞いた俺は男子から『本』をもらった。 


「じゃあ……」


 俺は男子のお言葉に甘え、俺はすぐにずっと気になっていた『星座』のページを開いた……。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……意外に重いな」

『はっ、ははは……』


 渡され、現在俺が持っている本。


 この『星座神話』の本は辞書の様に分厚い。一応座りながら見ているのだが、かなりの重量が俺の膝にかかっていた……。


 じゃあ、下すなりベッドの上にでも置いて読めばいいだろ……という意見が出てもおかしくない状況である。


 しかし…………。


 俺はチラッと横を見た。俺に本を渡した『幽霊』が興味津々という顔で本を覗き込んでいる。


 正直、寝転んで読みたいところだが……それをするのは、なんか悪い。


 その『男子』は俺の視線に気付かないほど本に釘付けだった。


 そんな状況で寝転んで読むとなると『幽霊』の集中を途切れさせてしまいかねない。そこで俺はふと疑問に思った。


 でも……なんでこいつはここまで……?


 この本を欲しがっているのか……。俺は全く分からない。しかも、俺はこの本の存在を知ったのはついさっきである。


「……」


 考えたところで俺に分かることでもない。そして、それを聞く必要性もないと俺は判断し、『蟹座』と一緒に星座になった『海蛇座』のページを開いた……。

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