第10話


「……っ、なんだったんだ。今のは」

「うーん、偶然とかじゃないとは思う。それにトラップの発動とかでもないと思うし……」


 二人は今の『光』を不審に思いながら何やら話し込んでいる。


 もしかしたら、今刹那さんが踏んだ紙に書かれていたモノが床にこすれてしまって何かおかしな変化があったのではないのだろうか……なんて声も聞こえている。


 普通であれば、こんな話をすれば「変なヤツ」とか言われそうだが、この二人は至って真剣だ。


 それはつまり、この二人は少なくともその『可能性を信じている』という事なのだろう。


「…………」


 僕は『どうしてそこまで……』とかよく知らないけど、分かっているのは二人の事情はかなり複雑だという事くらいだ。


 そして、僕はなぜか巻き込まれた人間。


 そんな中で僕が出る幕はないだろう。でも、残した他の子供たちの事を考えると、本当は早くここから出たい。


「まぁ、とりあえず……ん? どうした?」

「えっ、あっ……えと」


 ふと、僕の視線に龍紀さんが持っている紙の『図』が見えた。


「いいんだよ? 何でも気になった事なら。この人も君みたいな少年にかみつく事はさすがにしないからさ」

「おいっ」


 刹那さんは笑顔で言ってくれたし、その表情は……多分ウソを言ってはいないのだろう。


 それにしても『かみつく』とは一体?


「あの、その紙に書かれている『図』が……この床に書かれているモノに似ているな……と思って」


「ん?」

「え?」


 二人は僕の指摘に目を点としていたが、すぐに床に散らばった紙をどかし始めた。


「……」

「本当だ」


 刹那さんはすぐそう言ったけど、龍紀さんは慎重に床に刻まれた『図』を見ている。


「……」


 でも、慎重になるのも無理ない。確かに、この図は『書かれている』ではなく『刻まれている』のである。


 しかし、龍紀さんたちは「書かれたモノを消しに来た」と言っていた。そうなると、少し話が違う……と感じたのだろう。


「……どうやらこの図は、俺たちが探していたモノみたいだな」

「だからそう言っているじゃんか。慎重だなぁ」


「間違いがあったら困るだろ」

「確かにそうだけどさ。で、コレどうやって消すの? 明らかに書いたじゃなくて彫りましたって感じだけど」


 問題は『そこ』である。


「瞬からは特に時間の指定とかなかったけどさ。あんまりのんびりもしていられないんじゃない?」

「……言われなくても分かっている」


「それにしても、コレは『消す』じゃなくて完全に『壊す』って感じだね」

「ああ。しかし、壊すとなると……ここにせめてトンカチの様なモノと釘があれば壊せそうなのだが……」


 二人はキョロキョロと辺りを見渡したが、それらしきモノはなさそうだ。


「……あっ。釘ならその刹那さんのいる机の下にあります」

「あっ、本当だ」


「後は……」


 僕は『ある事』を思い出し、元々備え付けられていた戸棚の棚を開け、中からゴソゴソと袋を取り出した。


「??」

「??」


 二人は不思議そうな表情をしていたけど、僕はその袋の中から何個か『石』を取り出した。


「さすがに『トンカチ』とまではいきませんが、この袋の中に入っている『石』を打ち付ければ、トンカチの代わりになると思います」


 僕の言葉に二人はポカーンとしてしまった。もしや、あまりにも幼稚な考えに呆れてしまったのだろうか。


「いやいや、コレ。君の大事なものなんでしょ? そんなの使えないよ」

「ああ」


「え」


 これまた予想外の答えだ。


 でも、確かにこの『石』は僕が「この形、いいな」と思った石を孤児院の前とかから探したモノである。


 こんなモノを持っていると、小さい子には遊び道具にされちゃうし、同い年くらいの子にはバカにされる。


 だから、あまり気がつかれないここに置いておいたから、大事と言えば大事なのだけど……。


「いいんです。こんなモノで誰かの役に立つのであれば……あっ、これなんか大きくて使えそう」


 そう僕が笑って答えると、二人は小さく笑って僕から石をそれぞれ一つずつ手に取った。

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