第29章 再会
第1話
「……兄さん」
「何?」
「いや……」
「……瞬の言いたい事は分かるよ。多分『上手く誘い出されたんじゃないか』って事だよね」
兄さんの指摘に、俺は思わず無言になった。その通りだったからである。いや、本当に……相変わらずな人である。
「それと『分かっていたのになんで何も言わないのか』って事もね」
「……そこまで分かっているのなら」
どうして、この人は誘いにのったのだろうか。
「……相手に優越感を与えるため……かな」
「優越感……ですか」
「うん。あの爺さんたちは、確実に僕を意識している。それに、僕を怖がってもいる」
「……」
そう、祖父は兄さんを怖がっていた。
それはもう、自分の立場が脅かされるのではないか……と思ったほどだ。そして、その結果があのほぼ軟禁状態である。
「そんな僕が自分の思い通りに動いている……と分かったら、あの人たちはどう思うだろうね」
「……調子に乗りそうですね」
俺は思った事をそのまま言葉にした……が、どうやら兄さんのツボに入ったのか、その場で下を向いて笑ってしまっていた。
「…………」
これは、しばらく笑いが止まるまで時間がかかりそうだ。
「はぁ……笑った」
「そんなに笑うような事を言ったつもりはないのですが」
「ごめんごめん。確かに、調子にも乗るだろうね。それに、プライドの塊でなおかつ高い人たちだ。上手く乗せているって思えば、僕をどんどん下に見るだろう」
「そう……かも知れませんね」
俺はほとんど会った事のない人たちだが、兄さんの話から何となくのイメージはしている。
ただそのイメージが、どうしてもあの漫画やアニメで出てくる『悪役』になってしまうのは……俺の想像力が欠けているからなのだろうか。
「……それで、兄さんは全部分かっている上で爺さんたちの上に乗っかっている……というワケですか」
「まぁ、このまま進んでいくしか道はないのだけれどね」
「はぁ、兄さんは全てお見通しってワケですか」
「全部が全部ってワケじゃないよ?」
「そうですか?」
「そうだよ。僕は何でも知っている全知全能の神様じゃないからね。たとえば……そうだね。あの人たちの考えている事が上手くいってもいかなくてもその後の事は分からない」
「まぁ……そうですね」
「さすがに、僕でも『未来』の事は分からないからね。それは、これから起きるであろう事も……実は、あまり分かっていないんだけどね」
「そこまで分かったら、それこそ『力』ってヤツになりますよ」
「ははは、確かに」
そんな会話をしながら、僕たちは一本道を走って……ではなく、歩いていた。しかし、その間は誰も追いかけては来なかった。
俺は正直、その様子が逆に『誘い出された』という事を強く印象づけていた様に感じていた。
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