第4話


『妹さんかぁ。実は僕もあまり知らないんだけど……ただ分かるのは、優しい人だったって事くらいかな。それこそ困っている人がいたらどうにかしてあげたいって思っちゃうくらいの……』

「……なるほど」


 兄さんは『優しい』とは言ったモノの、俺は『責任感』とかそういった言葉が頭に過ぎった。


「その妹さんと父さんとの間には何も関係はなかったんですかね」

『……あったかも知れないし、なかったかも知れない。僕もそこまで詳しくは聞いていないんだ』


 それはそうかも知れない。


 兄さんは「どうして母さんが駆け落ちしたのか」という経緯を知っているだけで、妹さんの事を全て知っているとは限らない。


『ただ、妹さんが亡くなった時一緒にいたメイドさん曰く、その妹さんはいつも間食の時、いつも同じ紅茶を飲んでいたらしいんだよ。ただ妹さんはいつもストレートで飲んでいたらしい』

「じゃあ、妹さんが飲んだ時何か入れられていた……というワケですか?」


 それならば、一緒にいたメイドが疑われるのも分かる。


『うーん、どうやら妹さんは柑橘類のアレルギーがあるって聞いた事があるから、それかも知れない。メイドさんは妹さんがいつもストレートで飲んでいたのは知っていたはずだし』

「柑橘類でもアレルギーってあるんですか」


 乳製品とか甲殻類のアレルギーは聞いた事があったが、柑橘類のアレルギーは初耳だ。


『まぁ、アレルギーって一言で言ってもまだまだ分からない事だらけだから、なんとも言えないし、人によってその強度……というか、ひどさ? って言えばいいのかな、それこそ簡単には言えない』

「……そうですか」


 確かに、一言で『アレルギー』と言っても、人によって様々だ。それこそ、市に直結してしまうほどの人もいる。


『ただ、妹さんが亡くなった原因は毒じゃなかった。それに外傷もない。結局分からずじまいになってしまい、周囲の疑いの目はメイドさんに向けられた』

「……」


 すぐ近くで見ていたメイドに疑いの目が向かってしまうのは、何となく分かっていた。


『でも、メイドさんは私じゃないって言っても誰も信じてくれない。一人になったメイドさんに救いの手を差し伸べたのが……』

「母さんだった」


『そう、元々母さんは自分の家に疑問を持っていたし、それが確信に変わった。だから、一緒に逃げよう……と言って逃げた』

「……」


 どうして父さんだったのか、どういったやり取りがあってそうなったのか……それは兄さんでも分からない。


 ただ、この時も『双子の妹の死をメイドに押しつけようとした』それが母さんは許せなかったのだろう。


 俺が母さんの立場だったら、同じように怒ったかも知れない。


 しかし、俺は母さんと同じように『駆け落ち』しようとは……多分思わない。


『それにしても、父さんもよくやるよ。駆け落ちの手伝いなんて』

「そうですね」


 母さんの強い決意と、父さんの助力がなければ『駆け落ち』なんて出来なかっただろう。


『まっ、とりあえず母さんの実家のことは、もう少し僕の方で調べてみるよ。探れそうであれば探りも入れてみる』

「分かりました。ですが……気をつけて下さい。多分、ないとは思いますけど、ない……とは言い切れないので」


 あまり縁起でもない事を言うのは良くない。


 ただ、今までの事を考えると……どうしてもそんな事を考えてしまうのだ。それこそ『責任を押しつける』なんてことをしてしまう人たちである。


 もし、探りがバレてしまったら……なんて事を考えると、とても怖い。


『……分かっている。相手が相手だからね、瞬も気をつけて』

「はい」


 そう、コレは兄さんに言えるが俺にも言える事だ。もちろん、それは俺も分かっている。俺たちはお互いそう言って電話を切った。

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