第5話
――電話を切った後、俺は軽く天を仰いだ。
「……」
そこに写る景色はいつもと変わらないのに、なぜか違う様に見える。
いつもはしない事をしたからなのか、はたまた慣れない事をしたからなのか……理由は分からない。
それにしても、双子……その言葉を聞いた瞬間に『双子座』が頭を過ぎってしまったのは、多分。ついさっきまで『カード』の事を考えていたからだろうか。
しかも、兄さんと電話をしている時にも偶然『カード』を見つけている。
だからなのか、何に関しても『カード』に結びついてしまう。いや、それがダメだとか、悪いとかそういう事ではない。
早く集めなくてはいけないのだから、むしろこのくらい『カード』の事を考えていた方が良いのかも知れない。
「……双子座」
色々考えながらも、俺はおもむろに兄さんが送ってくれた『古代ギリシア』の本と『星座の由来』の本のページをめくった。
そこには『双子座の由来について』書かれている。
どうやら『双子座』はギリシア神話の双子ディオスクーロイが星座になったらしい。
この双子はスパルタ王国の王妃レーダーの息子で、兄のカストールの父はスパルタ王テュンダレオース、弟のポリュデウケースの父は大神ゼウスであったとされている。
つまり、二人の父親は違ったらしい。
そして、父親が神だった事もあり、その息子であるポリュデウケースも父親の影響からか不死だった。
メッセーネー王アパレウスの双子の息子イーダースとリュンケウスとの争いでカストールが死ぬと、ポリュデウケースはゼウスに二人で不死を分かち合いたいと願った。
ゼウスはその願いを受け入れ、二人を天に上げてそれが星座とされた。
「…………」
母さんとその妹さんがどれだけ仲が良かったかなんて分からない。それこそ、この本に書かれている彼らの様に『二人で分かち合いたい』
妹さんは亡くなり、その死の責任を押しつけられそうになったメイドさんを連れ、母さんは生まれ育った家を飛び出した。
もしかしたら、母さんは自分の妹さんの死について調べていたのかも……いや、調べていたに違いない。
それこそ、この本に書かれている彼らの様に『二人で分かち合いたい』というワケではないが、母さんはきっと妹さんの死の真相を知りたかったのだろう。
そうでなくても、多分母さんは自分の実家のおかしさに随分と前から知っていたのではないだろうか。
『いつかこの家を出て行く』
そう思い、勉強だけでなく炊事洗濯……メイドさんがいる家では必要のない事にも励んでいた様だ。
それは、唯一母さんが自分から言った事である。
生きていく上で必要なのは勉強だけでなく、むしろそれ以外の……もっと別のところで自分を磨く事だ。
そして、頼れる友達を作るべきだ……と。
母さんに限らず父さんも基本的に何事も自分でしてしまうような人ではあったが、それは多分。一人になった時の事を考えての事。
そして、それを考える様になったのはこういった事があったからなのだろう。
「…………」
俺は、今まで知らなかった母さんの過去を知った。それで俺の人生が変わる……とは言わない。
ただ、気になるのはやはり『母さんの実家』の事だ。
結局のところ『母さんの実家』については何一つ分からないままだが、関係者の話を聞くと、本当に怖いという気持ちしか湧かない。
兄さんが探りを入れてくれる……とは言ってくれたものの、相手が相手だ。俺はやはり兄さんの事が心配になった。
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