第6話
「……ところで」
『何ですか?』
「あなたは……もしかして……」
『……?』
何を聞かれるのか分からないのか『彼』はキョトンとして顔をしている。
「……もしかして『ヘラクレス座』ですか?」
確かに本人に聞くのは間違っている様にも思う。
「……」
でも、聞かないわけにはいかない。これはとても大事な事だ。
『正直、今更……なんて思ってしまいますが……はい』
「……」
少し照れくさそうな表情になったのは、多分。本人が一番「今更……」と思っているからだろう。
確かに『彼』は今……たった今。自分で『ヘラクレス座』だと言った。
それはつまり、星川空が探している『カード』の可能性がある……。しかし、その『カード』であるという証拠がない。
たった今、自分で『ヘラクレス座』だとは言ったのものの『カード』だとは言っていない。
いくらギリシャ神話に出てくるとは言え、本当にその『ヘラクレス座』のモデルになった人物である可能性も否定出来ない……。
「……」
そこで俺は少し考えた。
「…………」
『どうかされましたか? 急に黙り込んで……』
「あの……。何か俺に隠していませんか?」
『えっ?』
突然の俺の問いかけに『ヘラクレス座』は目を見開いた。
当然だろう。何気ない会話……とはとても言い難いが、全く違う話題から突然「何か隠していませか?」と言われたのだ。
「……」
だから『彼』が驚くのも無理はない……。だが、俺は間髪入れずに話を進めた。
「あなたは自分で『ヘラクレス座』だと言うことを明かしました……。そこで単刀直入にお聞きします」
『…………はい』
「あなたはとある少女が集めている『カード』……のうちの一つですか?」
『…………』
俺の問いかけに『ヘラクレス座』は黙ったままだ。
でも、黙ったままだと否定にも肯定にも取れるから正直、困る……なんてそんな俺の気持ちとは裏腹に『ヘラクレス座』は何か言葉を選ぶ様に今度は地面を見た。
『……あなたは、それぞれの『カード』にメッセージがある……って聞いた事がありますか?』
「? はい……」
一体どういった思考の流れでこの言葉が出てきたのか分からなかった。が、確か前に星川 空が『メッセージ』という言葉を言っていた事を思い出した。
『ちなみに僕のメッセージは、くじけそうになっていたり、たくさんの物事に翻弄されていたり……そんな状況ではありませんか? でも大丈夫。順序を決めて一つひとつ取り組みましょう。明確な意識を持つことが、今の大きなポイントになります』
「………………」
『何の事だか分かりませよね? 僕も最初にこの場所に来た時分かりませんでした。でも、今あなたと話をしてなんとなく分かりました……』
「…………」
『僕はあなたに出会う為にここに来たのだと……そう思えるんです』
何も言えずにいる俺を『ヘラクレス座』は小さな笑みを浮かべて見た。
「……なぜ?」
『なぜ? 答えが分かっているのにそれを言うのはヤボですよ』
何も言えずにいたが俺は小さく絞り出すように尋ねた。
『フフ……』
すると、小さく笑いながら『ヘラクレス座』は俺の方を見た。その姿は確かに『大人』の雰囲気を醸し出している。
「……確かにそうですね」
実は何となく俺は分かっていた。
分かっているのに答えを本人から聞きかなくてはいけないと感じてしまうのは、単に自分の中に確固とした答え……いや、ちゃんとした『証拠』が欲しかったのだと思う。そんなところが、ガキの俺と大人なヘラクレス座との違いだろう……。
「フッ……」
そんな自分で『ガキ』だと分かった俺は、自分で自分を自虐的に笑いながら『ヘラクレス座』を見つめながら話した。
「大体の『カード』の奴等はなぜ自分がこんな所にいるのか分かっていません。ですが、そこで会った人物によって自分がなぜここにいるのか理解していっています……。そんな事がほとんどでしたね」
『しかも、僕たちは下手をすればその出会った人物に影響を与えてしまいます。そう、それは良くも悪くも……』
あえて最後に「良くも悪くも……」と小さな声で付け足すように言ったのはあまり良いことばかりではない……と言っている様に感じられた。
……確かにカードが出会った人物たちに影響を与えている。
だが、それは全てが全て良いものではない。現に俺と刹那が最初に会った人物も、少なからずカードに影響された。
それにしても、もしかしたらこれが『初めて』ではないだろうか。
「……」
それは、『カード』が『自身のカード』について詳しく知っていることだった。だが、俺はそれ以上に気になることがあった――。
「……一つ、どうしても気になる事があります」
『なんでしょうか?』
「もしかして、あなたはご自分でご自身のカードの意味を知っていらっしゃるのではありませんか?」
『それは……!』
驚きで目を見開いている『ヘラクレス座』の答えを聞く前に俺は『ヘラクレス座』の言葉を遮った。
「それともう一つ」
『えっ』
そう言って俺は『ヘラクレス座』の前に人差し指を立てた。
「なぜ、この本を探していたのですか?」
立てた人差し指をそのまま本へと指した。
『…………』
「確かに、この本には『星座』に関して詳しく書かれています。ですが、どうして『カード』であるあなたがそこまで欲しがったのか。それが分からないのです」
『……』
「……もしかしてあなたは、俺の兄さんに言われてこの本を探していたのですか?」
――確かな確証はない。
なぜなら兄さんが俺と同じ様に『幽霊』を見ること……。もっと言えば会話が出来る……そんなことが出来るとは、俺の記憶の中では全く無かったからだ。
『ちっ……違うっ!』
あからさまに大声を上げた『ヘラクレス座』に一瞬俺は驚いた。が、それはほんの一瞬で、当の『ヘラクレス座』本人も自分自身では気付けてはいなかった。
「……違うとは?」
『俺がこの本を欲しいと思ったのは……』
「思ったのは……?」
『…………』
俺は『ヘラクレス座』の答えを黙って聞こうとした。
『っ!』
「ん……?」
突然、ノックされた音に『ヘラクレス座』は思わず顔を上げた。
『…………』
「…………」
俺たちは無言のままドアの方を見つめていたが、『ヘラクレス座』は自分の事は気にせずにドアを開けに行くように頷いた。
でも、なぜかそういう大事な答えを聞きたい時に限り、その肝心な答えが聞けない。なんて事はザラにある。
しかも、そういう話に限ってかなり大事だったり重要だったりする事が多い……という事が俺の経験上結構ある……なんて思いながらも、外にいる人を待たせるわけにはいかず、俺は扉を開けに行ったのだった。
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