第7話
「……っと」
「夜分遅くに申し訳ございません」
「いっ、いえ……」
そこには――――この家の執事、宗玄さんが立っていた。
「……」
……一体何の様だろうか。
俺は不思議に思っていたがが、それ以上に俺は気づいていなかった……いや、気づけていなかった。『ヘラクレス座』が宗玄さんの姿を見た瞬間、ものすごく驚いていた事に……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………」
「えっと……とっ、とりあえず」
さすがに立ちっぱなしで話をするのは失礼だろうと思った俺は、宗玄さんを部屋に入るように促した。
下手をすれば兄さんに見られている可能性も否定出来ない。キョロキョロと辺りを見渡し、周辺を確認した後、俺は扉を閉めた。
「夜分に申し訳ございません……」
「あっ!全然大丈夫です!気にしないでください。あの……それで一体どうしたのですか?」
俺は椅子に座って尋ねた。
「……」
宗玄さんは立ちっぱなしだった。
「えと……」
一応、空いている椅子に座るよう促したが、片手で制され、ふわっとした笑顔でやんわりと断られた。
そして――――――。
『………………』
二人の関係性に対してやや疑問に思いながらも、一緒に宗玄さんの次の言葉を待った……。
「……瞬様は、私に娘がいる事は知っていらっしゃいますよね?」
「……? はい」
俺は突然何のことか分からなかったが、知っているので返事をしながら頷いた。確か、年は夢とそれほど変わらなかったはず……だ。
顔は……ハッキリと覚えていない……なんてことをわざわざ言う必要もないので、黙って宗玄さんの言葉に耳をかたむけた。
「瞬様がいなくなられてからの話です。あの火災は……私だけではなく、私の家族にも大きな影響を与えました」
「…………」
それは、そうだろう。
あの時の『火災』はそこに住んでいた人の痕跡全てを奪った。でも、その『痕跡』は残っても残ったソレは黒いススが付いたり、黒い灰でしかない。
俺にも大きな影響を与えている。
この家の執事である宗玄さんに、その影響が出てもおかしい話ではない。それはもちろん、家族にも…………。
でも、なぜそれを今更わざわざ俺に言うのだろう?
そこが分からない。しかも夜更けのこんな時間に、わざわざ俺の部屋を訪れて、言いにきたのか、それが分からなかった……。
『……』
しかし、俺の隣にいる『ヘラクレス座』は黙って話に耳を傾けていた。
……もしかしたら、『ヘラクレス座』と何か関係があるのかも知れない……なんて俺はそんな『ヘラクレス座』の姿から感じていた……。
宗玄さんはずっと執事として俺の実家の『龍ヶ崎家』に仕えている。
そして、宗玄さんにも当然の様に家族はいる。実は、あの火災が起きた時も宗玄さんは『龍ヶ崎家』にいた。
「…………」
「…………」
『…………』
なんか、ものっすごく空気が重い……率直に俺はそう思った。
それはもちろん何かを持っていてそれが重いとか、何かがのしかかって重い……とかいう物理的な類では当然無く、この場の空気感というべきか、雰囲気というべきか。
とりあえず、今の雰囲気はかなり居心地が悪かった。
でもだからと言って……俺から話を振るのもおかしな話である。そして、『ヘラクレス座』は当然、宗玄さんには見えていない。
その上、声も聞こえいない……だろう。
いや、見えていても困る。この『ヘラクレス座』は……幽霊の様なものなのだから。しかしそうなると、宗玄さんから会話の続きを話してもらわなければこの雰囲気は変わらない。
――それで雰囲気が和むかどうかは別だ。
とりあえず、今は宗玄さんが会話を始めるまで待つしかない…。俺は特に焦らすこともせず、宗玄さんが会話を続けるまで待つことにした……。
「娘は……」
ようやく決意したように、宗玄さんは続きを話し始めた。
「娘は瞬様と想様……そして、夢様が大好きでした。よく皆様の後ろについて遊んでいたことを思い出します……」
「…………」
確かに……そうだ。
今、言われてようやく思い出した。かなり小さい頃の話だが、俺達はよく三人一緒にいた。
そして、宗玄さんの娘、千鶴さんも何かと一緒にいた。
当時はまだ小さく、話す言葉もどこかぎこちない感じだったがかなり可愛い少女だった。しかし、あの火災以降会っていない――。
「千鶴は、同じ女性。そして年が近いこともあり、夢様を本当の姉の様に慕っておりました」
「そう……でしたね」
俺はその言葉に同意した。
確かに、千鶴さんは俺たち兄弟と一緒に遊ぶこともあったが、やはり年も近いということもあり夢は、実の姉妹の様に仲が良かった……。
「遊ぶ時も寝る時も一緒でしたね……」
「ですが、あの火災以降瞬様と夢様はこの家に来られることがなくなりました。そして、二度と会うことなく夢様が亡くなりました……。その事がどれだけ千鶴の心を傷つけたか……」
宗玄さんは「これがどういう事か、あなたにお分かりになりますか?」と言っている様に俺は感じた。
「……すみません」
俺は顔を伏せている宗玄さんに謝った。それで何かが変わるかと言われたら、変わらない。
だが、それでも謝らずにはいられなかった――――。
「…………」
「…………」
「申し訳ございません。口が過ぎました……」
すぐに宗玄さんは俺に謝った。
「いえ……」
俺はそんな宗玄さんの言葉に返事をした。
「……確かにそうですね。俺は、何も考えていなかった」
あの時は……幼いから。なんて、ただの言い訳でしかない。
あの頃の俺は千鶴さんの事だけでなく、何もかもを全く無視していた。小さな子供にそんな事を言葉も出さずに察しろ、分かれ……。と言うのは無理な話かもしれない。
しかし、それ以上に千鶴さんを傷つけてしまった。
それは間違いのない事実だ。だから、彼女を知る人や知人から『無責任』と言われてもしょうがない……と思えた。
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