第4章 鯨座
第1話
「レッツ! トリックオアトリート!」
「なんだ、いきなり……」
「いやー、そういえばハロウィーンだったと」
「…………」
どうやらこいつは、年がら年中お祭り騒ぎじゃないといけない人間のらしい。
「なぁ……」
「ん?」
「ハロウィーンがいつなのか知っているか?」
「…………」
俺としては、別に何とも思わずきいた。
「いや、全然?」
「即答か……」
「はぁ……ハロウィーンは十月三十一日だ」
「そう……なの?」
刹那は知らなかったと首をかしげた。
「まぁ、そうだろうとは思っていた。思っていたし、ついでを言うなら菓子自体持って来てないけどな」
「はぁー。そうなのかぁ……」
そう言って刹那は俺の机に顔を伏せた。
「…………」
こいつの名前は宮ノ
一応、眼鏡をかけているが……決して勉強が出来るという訳でもなく、とにかく文系が全く出来ない。
しかし、刹那は昔から理系……特に天体に関する分野で間違えている場面を……というかそもそも問題数も少ないのだが、俺はその少ない問題を一度も間違えたのを見たことがない。
人には何かしらの才能がある……とも言うからな……なんて、完全に人ごとと思いながら俺は水筒に手を伸ばした。
「そういえば……」
突然、刹那は何か思い出した様に俺に尋ねた。
「なんだ?」
「星座に興味を持ち始めた……って言っていたよね?」
「……言ったな」
正直、その時の事はあまり思い出したくもない。
それは、俺がちょうど星座に関する本を机に置いていた……というなんとも間抜けなミスにより俺が星座に興味を持ったことがバレたからだ。
しかも、それを言った時はかなり刹那にバカにされた。
もちろん、刹那に突っ込みを返した……なんて、なんだかんだでそんな日から俺の話から早くも一ヶ月が経とうとしている。
「そんなことよりお前は人の心配より自分の心配をすべきだ。いつも、赤点常連のはずだが?」
「わー、聞こえなーい」
「はぁ……本当に自分の都合が悪くなるとそうするよなお前は」
そう言って俺はため息をついた。
「で? なんでわざわざこんな事を聞いて何かあるのか? 今更だろ」
「ん?」
刹那は「何が?」と言う顔で俺を見ている。
「ただ聞いた……って訳じゃないと思ったが?」
「あー……」
俺の問いかけに刹那は観念したかの様に頬をかきながら顔をそらした。明らか何かを隠しているようにしか見えない。
「瞬……明日の放課後暇?」
「明日? 明日なら……大丈夫だ。今のところ何の予定もない」
「そっか……」
「なんだ? 煮え切らないな」
「……いや」
「……どうした?」
どことなく刹那の表情が曇っているように見える。
だが、刹那がこういう探りを入れるような話し方の時は大抵『幽霊』が関係している……という事が分かるのは、いつも頼まれているからだろう……。
それにしても……こいつが俺に頼むのは幽霊が『みえる』からという事は分かる。だが、いつも頼む時はここまで表情が沈んでいる事は……なかった。
「…………」
確か、俺に『前』頼んだ時は……いつもの様に俺と共に『洋館』に訪れて、怯えていただけだったはずだ。
しかも、その時に俺が必死に探しているカードの『カシオペア座』を見つけるきっかけにもなった。
でも、今回もそういった噂の類かと思ったが……刹那の暗い様子を見た限りそうではなさそうだ。
「実は……さ。この前の夜。鯨座を偶然見たんだよ……」
「なんだ? 突然」
確かに、今の季節に『鯨座』が見える。それは、ここ最近調べた時に得た豆知識だ。
「……それで、空を見ていたら……」
「ああ……」
「家の庭にちょうど人が……いてさ」
「うん? ちょっと待て」
俺はそこで刹那の話を止めた。
「ちょっと待て。お前の家は確か……」
「…………」
俺と刹那は小学生のからの付き合いだ。当然の様にお互いの家にも遊びに行ったこともある。
かなり前の話にはなるが……今も当時のままであれば、確か刹那の家は大きな門があり、当然のように家の敷地は高い塀で囲まれていたはずだ。
こんな言い方をすれば『監獄』のように聞こえるかも知れないが……。
分かりやすく言えば刹那の家は『お金持ちの家』なのだだ。俺自身、そんな家にかなり驚いたからよく覚えているのだが、問題はそこではなく……。
そんな家に人がいること自体おかしな話なのだ。
「うん。昔のままだからその想像で合っているよ」
まるで分かっていたかのように刹那は答えた。
「じゃあ……泥棒か?」
一応、念のために聞いてみた。
「違う……と思う。一応、家の中を調べたけどなくなったものはなかったし……」
「……だろうな」
「……って! そうじゃなくて!」
そう言って刹那は机を叩いた。
「悪い……。あまりにも……刹那が暗かったからな……」
「それでも、さすがに『泥棒』は……ないよ」
「……そうだな」
もし本当に『泥棒』なら、刹那に姿を見られている時点でかなり間抜けな『泥棒』である。
「そうじゃなくて、その人が『幽霊』かどうか確かめて欲しいんだよ」
「なぜだ? 俺ならともかく、刹那に姿が見えているのなら人間のはずだろ?」
「それが……」
「……?」
なぜか刹那の言葉はいつも違い歯切れが悪い。
「だから……な?」
「ああ、なるほどな」
しかし、刹那の「察してくれ……」という表情からを俺はどうしてこんな含みのある言い方をしているのか読み取った。
「……分かった。そういうことなら明日の放課後、刹那がその人を見た場所に行くしかないな」
「……助かるよ。そんじゃ……」
「ああ……」
刹那がそう言い、俺が短く応じたと同時にチャイムがなり、俺たちはそれぞれの席についた。
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