第15章 誤解

第1話


「ふぅ……」


 吐いた息は白い……。


 どうやら昨日、雪がかなり降ったらしく……その影響により山は辺り一面真っ白な『銀世界』となっていた。


 ただ雪が降っただけであれば何も問題ない。


 でも、話はそんな簡単なモノではなく、家の前にあるはずの『階段』がなくなるほど、降り積もっていた。


 こんな状態を放って置く事は出来ない。


 そこで朝早くからこの家の執事である卯崎宗玄は除雪機とスコップを駆使して除雪作業に順次していた。


「……そろそろですかね」


 宗玄さんは年季の入った懐中時計を取り出し、時間を確認し、そのまま空を見上げた。


 そして除雪作業を一旦切り上げ、朝食準備をする事にした――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 そんな頃、天野瞬はというと……。


「うっ……寒っ」


 カーテンの間から差し込んだ朝日に目を細めた。せっかくの休みだし……と今までやりたくても出来なかった『昼まで寝る』という事をやろうと思ったけど……。


「寒い……し、眩しい……」


 やはり、いつも寝ている環境も違う。それにやはり寒い……という事もあり、俺は結局起きる事にした。


「はぁ、起きるか」


 昨夜は色々考える事があり、頭の中がまとまらずなかなか寝付けなかった。だから本当はまだ寝ていたいのだけれど……。


「……はぁ」


 俺はため息をついてベッドから下りた。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「……ふぁ」


 廊下を歩きながら俺は軽く伸びをし、内心「まだ寝ていてもよかったな」なんて後悔していたけど、もう一度ベッドに戻って寝るというのも……と思っていた。


「ん?」


 そんな時、俺はちょうど宗玄さんが除雪作業を切り上げて家に戻る姿を見かけた。


「あの人……すごいよなぁ」


 失礼な話だとは思うが、宗玄さんももうあまり若くはない……とは思う。でも、実はは正確な年齢を……俺は知らない。


 でも、俺が小さい頃と兄さんの事を考えると……やはり若くはない……はずだ。


 それにしても今、家に入った……という事は、もしかしたら宗玄さんが朝食を準備をしようしているのかも知れない……。


「……行ってみるか」


 そう考えた俺は厨房に向かうことにした――のだが。


「あっ……」


 想像以上に宗玄さんと会うのは……早かった。


「おはようございます。瞬様、ゆっくりお休み出来ましたか?」


 実直で真面目……それがいつもの宗玄さんである。


 でも、たまに見せるこの『フワッとした柔らかい笑顔』もまた魅力の一つだ。


「……」


 そんな笑顔を見せられると、とても気持ちが穏やかになり、こちらも自然と笑顔に……なるはずなのだが……。


「……」


 悲しいことに、どうやら俺の笑顔は……他人からするとかなり分かりにくい……らしい。


 最初に言われたのは確か……刹那だったはずだ。


 俺の気持ちとしては正直「余計なお世話だ」と思うが、毎回よく笑っているはずなのに「怒っている?」と刹那以外の人間に言われると……無性に悲しい気持ちになる事もある。


 でも、それには理由がある。特に何か深い『事情がある』とかそんな事もない単純明快な理由だ。


「……」


 それはただ単純に刹那は昔からの腐れ縁だけど、それ以外の人とははそこまで付き合いが長い訳じゃないからだ。


 笑顔がぎこちないから……というワケではないが、俺と刹那は高校をあえて家から遠い所にした。


 もちろん、対人関係に問題がある……とかそういう訳じゃない。


 一番の理由は刹那のテスト及び、授業の成績全て含め……とても俺たちの住んでいる周辺の高校で行ける高校がなかっただけなのだ。


 おかげで、今の高校では高校以前の俺たちを知っている人はほとんどいない。


 ただまぁ「俺自身、高校はどこでもよかったのだけれど……」なんて言えば、刹那はまたおかしなテンションで茶化してくるだろうからあえて言っていない。


 それに……まぁ、ありがたいことに……高校に入ったからも俺と刹那はクラスが離れることはなかった。


「……はい。ぐっすり眠れました」


 かなり間を置いたのは実際のところ寝たのは日付が変わった時だったから……という気持ちがあった……からではあったけど、ちゃんと寝られたのだから間違いじゃない。


「それはよかったです」


 そんな俺の心の声はあえて言葉にせず、「ぐっすり眠れた」という俺の答えに嬉しそうに宗玄さんは笑ったのだった。

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