第6話


 卒業式が終わって、雨宮さんを含む三年生は無事に卒業した。


 そして、二年生の俺たちは次の日も普通に学校に行かなければならない……というか、卒業式が終わった今日が終業式だ。


「はぁ……」


 今日が終業式という事は、今日の学校は半日。しかも、今日の部活は清掃業者が入るとか何とかで原則禁止になっている。


「どうしたの、瞬。そんなにため息ついて」

「ああ、刹那」


 いつもとほぼ同じ時間。席替えしても、変な運のせいで今まで最初からほとんど変わらない席。


 ただ昨日と違うのは、俺の気持ちか……。


「いや、何でも」

「……ないって感じじゃないよ?」


「…………」


 こういった変化に気付く辺り、さすがである。


 女性に対してもこういった対応が出来れば、多分モテるのだろうが、残念ながら刹那は女性を前にすると緊張してしまうらしい。


「はぁ、実は昨日兄さんからの手紙に書かれていた人が俺を訪ねて来た」

「え」


 俺が兄さんと手紙でやり取りをしていることも、その内容も大まかであれば刹那も知っている。


 だから、刹那は俺の言葉に驚いていたのだ。


「そっ、それって確か『春休みに入ってから』じゃなかった?」

「ああ」


 しかし、千鶴さんがどういう性格の人……という事までは話していない。


「どうやらあの人としては、サッサと用事を済ませたかったみたいらしくてな」

「いっ、いやそれにしてもさ」


 ただまぁ、刹那のこのリアクションを見る限り、刹那の中で思っている『普通』にどうやら千鶴さんは当てはまらないようだ。


「まぁ、話自体はかなり興味深いモノだったな」

「……」

「……瞬がそこまで言うのはなかなかなだったんだな」


 龍紀は何気なくそう言って現れた。


 卒業式が終わっても生徒会の仕事は終わらない。仕事が終わって減るどころか、むしろ山積みのままで、今度は新入生の入学式の準備に追われている。


 ただ、今日は部活動も原則禁止だが、同じように委員会も今日は活動禁止である。


 そりゃあ、業者の立場からしてみれば、教師ならまだしも生徒が残っていては作業がしにくいだろう。


「でも、そんなに興味深い話なら聞きたいところだね」

「……」


 ――しまった。


 こんな刹那の興味を引くような言い方をしてしまったら、当然こう言われているのは分かっていたのに……。


「別にそんな面白い話じゃない……ただ、母さんの過去の話だ」

「そっ、そっか……ごめん」


 刹那は俺の『母さんの過去の話』という言葉を聞くと、刹那は何やら気まずい表情になり、それ以上深くは追求してこなかった。


「……」


 俺は別に聞かれてもそこまで気にせずに答えていたのだが、刹那は俺の母さんが亡くなった時の事を知っているから、追求するのは悪いと思って気を遣ってくれたのかも知れない。

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