第11話


「さて……」


 俺たちは誰かと会う前に、そそくさとその場を後にし、現在。ひとまず俺の部屋に全員集合している。


「まず、なんで君は『見えている』の?」

「……」


 いや「まず」に続く言葉が、まさか『それ』だとは思わなかった。でも、気になってはいけども……。


 そもそも、千鶴さんも見えているのなら、この間会った時に教えてくれても良さそうな話だ。


「いや『そもそも』というのであれば、まず『コレ』が何なのかという事と、俺がこの人と出会った経緯を説明させてくれるか?」


 龍紀はそう割って入った。


 まぁ、妥当なところだろう。そもそも『どうして二人は出会ったのか』その経緯が分からなければ、千鶴さんの持っている『モノ』についても説明も出来ないだろう。


「あっ、そうだね」


 刹那も特に「今すぐに知りたい」というワケではなかったらしく、サラッと引いた。


「あっ、ああ」


 ただ、龍紀は案外簡単に刹那が引いた事に思わず驚いていた。


「実は、俺。この病院に着くまでは何事もなかった。ただ、ここに着いて連絡を入れようと思ったときに……何かが俺の顔を掠めた……様な気がしてな」


 しかし、龍紀は『何かが顔を掠めた』くらいにしか思わなかったらしい。


「なるほどな」

「だから、その頬の傷」


 龍紀自身は『顔を何かが掠めた』というのは分かっていても、まさか『怪我』をしているとは思っていなかった様だ。


 こういった状況に陥った時、人は真っ先に『何』といった『原因』を探す。しかし、その『原因』が分からなかった時、恐怖を覚える。


「最初は『風』によって物が飛んできた……とか思った。ただ」

「あの時って、風。吹いていたっけ」


「ああ、俺がそこを通った時も『無風』だった。そこで、頭を過ぎったのが……」

「俺か」


 龍紀は、チラッと俺の方を見たのは分かった。そうなれば、俺で『何を』連想するのは容易である。


「だから、近くにいる『人』を見たが……」

「いなかった……と」


「そうしている時に、この人に腕を引っ張られた」


 腕を引っ張った際に、二度目の切り裂くような『風』がちょうど龍紀の肩の辺りをかすったらしく、よく見ると服が少し切れている。


「しかも、ちょっとけてしまった。その結果が、このかすった跡というワケだ」

「なっ、なるほど」


「……で、千鶴はその龍紀を襲っている『何か』が分かった上で助けたというワケか」

「はい」


 千鶴さんが『龍紀を助けられた』という時点で、最初に刹那が言った言葉に繋がるわけなのだが。


「それにしても、大変だったね。だって、龍紀は『見えない』から」


 刹那はしみじみと言った。


「……」


 そう、龍紀は『見えない人』だ。つまり、龍紀は『見えない敵』からの攻撃をいきなり受けたのだ。


 それは……ただの『恐怖』でしかなかったに違いない。

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