第4話


「……あっ」

「どうかされましたか?」


 出発してすぐに俺は『ある事』を思い出した。


「あの、家に行く前に寄って欲しいところがあるんですけど……」

「……かしこまりました」


 俺は特に「どこに……」とは言っていなかったが、宗玄さんは分かった様に頷き、その『ある場所』へと車を向かわせてくれた。


 特に詳しく言わなくても、理解してくれる……そう言ったところがこの人のすごいところである。


 でも、それを言ったところで多分「それが仕事ですから……」と言うだけなんだろう。謙遜けんそんもなしに


「……」


 山に入る少し前……そこは、俺が『龍ヶ崎』から現在の苗字『天野』になるキッカケを作った人物が『眠っている場所』だ……。


「はぁ……」


 俺が……いや、俺たちが歩いている道はどこも硬い『雪道』だった。


 この土地の雪は基本的に吹雪とともに降る……そして、その後はまるで決まっていたかの様にいつも雨が降る。


「おっと……と」


 つまり、この山に降る雪は基本的に新雪の様にフワフワとしてはおらず、固まっている……からまぁ、この道は結構路面がツルツルして滑る。


「……」


 それにしても……こんなに上等な『雪山』があるのに、スキー場などのいわゆる『冬のレジャースポット』がないことに疑問を持つ人も少なくない。でも、その理由は単純明快だ。


 それは「ここが龍ヶ崎家の土地だから」である。たったその一言でこの話題は終わってしまう。それ程までにこの土地での『龍ヶ崎』の名前は絶大な影響力があった。


「えっと……確かこの辺りだったはず」


 俺はずっと持っていた『花』を持ち、辺りをキョロキョロと見渡し『それ』を探していた。


「……」


 ちなみに宗玄さんは無言で俺の後ろを付いてきていた。


「…………」


 これも宗玄さんの言うところの『執事』という職業だから……なのかも知らない。


「あっ……」


 なんて考えている内に俺たちは『目的地』に辿り着いた。


「……」


 目の前には『天野家』の文字がある。


 そして、横には眠っている人物の名前……そう俺の母親の名前が書かれていた。しかし、そこにはあるべきはずの『名前』が刻まれていない……。


「……結局、夢は母親と一緒に……されなかったんですね」

「……」


 俺がここに来るのは実は二回目だ。


 その時は実家には顔を出さずにここだけ訪れた。だから、この事実は知っていた。知ってはいたけど、その時はそれを確認する相手がいなかった。


 だから、俺はあえて今、宗玄さんに尋ねた。


「申し訳ありません。旦那様は一緒に……と仰っていたのですが……」


「兄さんがそれを拒否したんですね?」

「…………」


 俺の言葉に宗玄さんは否定も肯定もせず、ただ沈黙していた。


 つまり、この場合は『肯定』という事なのだろう……とその姿を見ながら俺は納得した。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 『あの時』


 実の父でありながら、詳しい話は知らないが、父さんはいわゆる危篤状態というやつで今にも死んでしまいそうな状況だった……らしい。


 そのタイミングを好機チャンスと思ったのが兄さんだ。


 兄さんはその『社長が危篤』という混乱に乗じて軟禁されていた部屋から逃げ出した。


 そして、俺の……いや、俺と妹の『夢』の前に現れた。しかし、ただ現れたぐらいじゃどうってことはない……。


 でも、兄さんは父親の危篤を母親のせいにしたのだ。


「……」


 通常であれば「そんな事をが言ったところで……」というやつで誰も聞く耳を持たない……はずなのだが、あの時はそれが通ってしまった……。


 それはなぜか、それは兄さんが部屋に閉じ込められていた『理由』にが関係している……。

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