第6話
――そうか、俺は避けられていたのか。
「……」
そう思うと、何となく合点がいく。決して頑なではなかったものの、俺が物心ついたころには母さんと二人きりなんて事はなかった。
それはもちろん、夢がいつも近くにいた……という事もあったが。
「あの、もしかして勘違いをされているかも知れませんが……」
「勘違い?」
「はい、瞬さんたちのお母様がご自身の事を話されなかったのには当然理由があります。そして、それは自分自身の『過去』についても触れることになる……それを避けたためだと思われます」
「なっ、なんでそれを避ける必要があったんだ? そりゃあ、母さんの実家が普通ではないという事は薄々感じていたが」
聡さんの一件にしろあの火事の一件にしろ、母さんの実家について悪く言うつもりはないが、明らかに『おかしい』事ばかりだ。
しかも、その『責任』はその出来事を起こした本人に押し付けて、後は雲隠れする……という、とんでもない人たちという事は分かっている。
「後ほど、詳細を想様から確認していただきたいのですが……」
「??」
そう前置きすると、千鶴さんは小さく「はぁ……」とため息をついた。それはまるで、何かを決心した様にも見える。
「本来、こういった話はご家族の方から直接されるのが妥当かと存じます。ですが、状況が状況ですので、簡単に私の方から説明させていただきます」
「おっ、おう」
まるで「業務連絡」を思わせるような……それくらい事務的に淡々とした口調でありながらも、千鶴さんは凛とした表情で俺の方を見た。
そんな視線を向けられると、俺の方も自然と身構える。
多分、今から言われる話は母さんの過去に関する事だろう。それは容易に想像できる。
しかし、千鶴さんの言う通り、本来こういった話は『家族』から話されるべきだろう。
その事が分かっていても、千鶴さんはそれを話そうとしている。
つまり、その話が『今とても大事なモノ』だということを意味しているからだ……と、俺は千鶴さんの次に出てくる言葉を黙って待つことにした。
「まず、瞬さんたちのお母様はあまり……いえ、ほとんどご自身の家の事を話すことはなかった。もっと言えば、お父様の馴れ初めの話もされた事はない。そうですね?」
「あっ、ああ」
言われてみれば、母さんの実家の事はおろか、父さんとの馴れ初めの話……なんて聞いた事がない。
いや、俺が『女子』なら、そんな話を聞いたかも知れないが……。男子学生が母親に父親との馴れ初めの話を聞く……なんて事をするだろうか。
「瞬さんが私の様に『女性』であれば、その様な話をしていたかも知れません。ですが、お母様は多分、瞬さんからその事を聞かれても……上手くはぐらかすか答えなかったかも知れません」
「……なぜだ?」
「それは、ご自身が駆け落ち同然で家を出て行ったから……という事でしょう」
「…………」
またしても、ただ淡々と……揺らがない事実を千鶴さんは述べた。ただそれだけなのに、黙りながらも俺は……その事実にかなり動揺していた。
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