第7話
「かっ、駆け落ち……」
俺がその単語を知ったのは、それこそ『ドラマ』の世界だ。
しかも、俺が生まれる少し前……いや、それ以上前にあったという事はせいぜい『知識』として知っている程度である。
そんな事を自分の……母さんがしたという事に驚きが隠せない。
「……私が知っているのはその『駆け落ちをした』という事だけです。どうしてそんな事をせざる負えなかったのか……そこまでは私も分かりません」
「そう……か」
千鶴さん本人も「本来であれば『家族』から話すべき」と言っていただけあって、多分それ以上の事はあえて聞かなかったのかも知れない。
いや、そもそも宗玄さんが教えるはずがないか。
もしかしたら、兄さんが千鶴さんに「この『駆け落ち』の事実だけを伝えて欲しい」と言ったのかも知れない。
つまり、この詳しい話を兄さんから聞くか聞かないかは俺次第という事になる。
「そういえば、今日はいらっしゃらないのですね」
「ん? 誰がだ?」
一瞬、俺の友人である刹那の事を言っているのか……と思ったが、今までの話の流れから察するに、多分違う。
そうなると……思い浮かぶのは後『一人』だ。
「あの『カード』と呼ばれるモノを察知すると犬のごとく現れる……」
「あぁ……」
やはり『
――いや、それにしたって『犬』って。確かに、いつも『カード』が絡むとどこからともなく現れるけども……。
「ただ『あいつ』は俺が呼んで来る……ってワケじゃない。むしろ『カード』の可能性が出てくれば、勝手に現れるようなヤツで……」
「確か、お話によるとその方は『感情』が乏しいとか」
「ああ。でも、本当にあの『カード』があいつの『感情』そのものを根こそぎ持って行った……って気は正直しない」
「……なぜ?」
そう改まって聞かれると『正直、分からない』が俺の答えだ。
しかし、何か言葉で表現するとすれば「そんなのファンタジー過ぎて全然受け入れられない」と言ったところだろうか。
「私も、この話を聞いた時。確かに現実的……と言いますか、冗談の様に聞こえました」
「……」
やはり、それが『普通』の反応なのだろう。
「ですが、今まで瞬さんの周りで起きてきた出来事などを鑑みると……とても冗談には聞こえません。それに、彼女は一体何者なのでしょうか?」
「それは……」
言われてみると確かに、俺は『空について』何も知らない。いや、聞くのが怖くてずっと保留にしてきた。
「ただ、何となく察しがついているのは彼女は多分『あなた方のお母様のご実家』に関係がある……というくらいでしょうか」
「そうか、やはり……」
ここまで母さんの実家が関係してきたのだから、その可能性は非常に高い。俺は何となく分かっていた事を今更否定する気にもならない。
「ただ……」
「?」
千鶴さんは何やら考え込むように顎に手を当てた。
「彼女自身は『何も知らない』いえ、そもそも『知らされていない』可能性がある事はありませんか?」
「たっ、確かに……」
最初、空に会った時。
確かに、彼女は白いローブに身を包み『スーパームーン』と呼ばれる夜に『あの場所』に現れた。
しかし、俺と初めて対面した彼女は何も言わず、何やら『儀式』の様な事をしていはずだ。
だから詳しい事を俺が知るはずもないのだが……。
「その可能性は……否定出来ない」
「――そうですか」
ただ今までの事を考えると、母さんの実家は『人にやらせはするモノの、詳しい話は一切しない』という事がやけに多かったように思う。
それは聡さん自身が言った言葉からも明らかになっている。
まぁ、だから『何も知らない』からこそ『でっち上げ』に『押しつけ』なんて事が出来るんだろうけども……。
でも、みんな「それがこの家のやり方か……」と悟っている様にも思えてならない。
「……力ある者に対し、弱者というのは本当に辛いモノですね。たとえ『間違っている』と分かっていたとしても、従わざる負えない。そうしなければ……」
「自分の家そのものも、その小さな『一族』という名の『枠』から出てしまう」
しかも、悲しいことにその『枠』から出てしまっただけ……ならまだいいが、その事によって『後ろ指を指される』なんて事になりかねない。
「枠から出られる……と言うのであれば、そうしたい人はいるはずです。しかし、ただ後ろ指を指されるだけならまだしも、大体こういった『一族』というのは仕事もその『一族』で行っているケースが多いです」
「つっ、つまり、その『枠』から出てしまったら……」
「よほどの事が無い限りその仕事場にはいられないでしょう。しかも、そういう『一族』というのはその業界で多大なる影響力を持っている事が多い。だから、何かしらもめて辞めることになった後、妨害してくる可能性は否定出来ません」
「…………」
空は、果たしてこんな『裏の事情』を知っているのだろうか。
ただ、最初に見た時の彼女を思い返してみると……そんな『義務感』で来たようにはとても思えなかった。
「……」
しかし、あの時とは違う。彼女が『儀式』で使おうとしていた『カード』はバラ撒かれ……その事により、彼女は……多分『感情』を失ってしまった。
そんな状況の中、彼女は今も健気に『カード』を探し集めている。
まぁ、そもそも『俺』がそのバラ撒きの原因でもあるわけだから、付き合ってはいるものの、もしかしたら、空はただただ言われるがままに行動しているだけなのかも知れない。
確かに、バラ撒かれてしまった当初は「手伝って」とは言ったモノの、コレが俺ではなく、どこにでもいる一般人だったら……。
もしからしたら、しばらくして「もう大丈夫」とか適当な理由を付けて『カード集め』は終わりを迎えていたのかも知れない。
「結局、俺が……」
「――悪い……とでも言いたいのですか?」
「え、でも……そうだろ?」
「私としては、そもそもあの場に瞬さんが行くのを知っていたのではないか……と思っているのですが」
「……」
「これはあくまで私の想像なので鵜呑みにはしないでください」
千鶴さんにはそう念を押されたが……こんな言い方をされると、気になってしまう……のだが、千鶴さんはそれだけ言うと、席を立ってしまった。
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