第14話


「うっ……ぷ」

「……」


 朝食後、食堂を後にした俺たちはゆっくりと……それはもうゆっくりと自室に向かって歩いていた。


「……大丈夫か、刹那」

「大丈夫……って、言いたいところだけど」


「……無理するな」

「……うん」


 刹那の気持ちとしては「せっかく出してもらったモノを残すのは、たとえ相手がいいた言っても自分が嫌だ」というところだろう。


 その気持ちは俺もよーく分かる。


 だが、歩くのもやっと……というところまで頑張る必要もない様に感じてしまう……難しいところだ。


「あれ?」

「ん?」


 ゆっくりと廊下を進んで行くうちに、俺たちは偶然廊下の窓から外を眺めていた兄さんと出くわした。


「あっ、刹那くんと瞬じゃん」


「おはよう、兄さん」

「おっ、おはようございます」


 俺たちがそう言うと、兄さんも「うん、おはよう」と返した。


「お兄さんはここで一体何をされているんですか?」

「ん? いや、なに。まだまだ雪が積もりそうだな……って」


 そう言って俺たちも外を見た。


「……」


 確かに、兄さんの言う通り。まだ雪が止むには早いらしい。でも、フワフワとした雪は降っているモノの吹雪いてはいない。


「……兄さん」

「ん?何?」


「俺と刹那は今日の午前中に帰ります」


 その言葉に刹那は「え?」と驚いていたけど、兄さんは特に驚きもしていない。


「……そっか。じゃあ宗玄さんにもそう伝えないとね」

「宜しくお願いします」


「僕としては冬休みいっぱいいてくれてもいいんだけど……何やら急ぎの用事があるみたいだしね」

「……すみません」


「まぁ、それなら仕方ないね。それに、僕も僕で忙しいから」

「…………」


 兄さんは少し苦笑いをしながらそう自分の部屋の方を見ている。まぁ、それは俺がここにいようがいまいが関係のない話だろう。


「うーん、そうだね。後は……うん、帰る前に一声かけてくれるかな?宗玄さんに送ってもらわないと」

「……はい」


 なんて言いながら兄さんはどことなく寂しそうな顔をした。


「瞬、もしも何かあったら皆を頼っていいんだよ?」

「……」


「その皆の中に……僕がいるとは……」

「……いますよ」


「え……」

「!!」


 俺のその言葉に兄さんはもちろん驚いていたが、なぜか刹那も分かりやすく驚いていた。


「兄さん、俺。言いましたよね ?これからもよろしくって、それなのに除外なんて……しませんよ」

「……そっか……そっかぁ」


 兄さんはなぜかその言葉を噛み締める様に言い、そのまま窓に写る景色へと視線を戻した。


「じゃあ、帰る準備をしないとね」

「あっ、はい」


「それじゃあ僕は自分の部屋に戻るよ」

「……?」


 その時の兄さんの声は……なぜか鼻声だった。でも、俺はその理由がよく分からず、不思議に思いながらその場を後にした。


「兄さん……なんで鼻声だったんだ?」

「……えっ、瞬。分からなかったの?」


 刹那は驚きの表情で俺の方を見ていたが、俺は全くその理由が分からない。


「……ああ」

「はぁ、呆れるなぁ」


「なんでだよ」

「あー、でも瞬は感情の起伏に鈍感だもんなぁ」


「失礼なヤツだな」

「いや、人の事言えるの?」


「…………」


 改まってそう言われると……答えられない。確かに、俺自身「鈍感なところはある」とは思っていたが、こうも面と向かって言われると……ちょっとショックだ。


「でも、驚いたよ。まさか今日の……しかも、午前中に帰るって言いだしてさ」

「……悪い。刹那も一緒に……って、なっちまって」


「そこは別にいいよ。本当は昨日のうちに帰るはずだったんだから」

「……そうだったな」


 そう、刹那は本当は昨日帰るはずだった。しかし、吹雪もすごく時間も遅かったことから、兄さんが泊まるように言ったのだ。


「でも、俺はともかく瞬は……何か『理由』があったから……だろ?」

「……まぁな」


 俺としてはこの家で見つかった『古びた本』について調べたい。それに、この『カード』を持ったままここにいるのは避けたかった。


「でも、いいのか? お兄さん……」

「ん? ああ、いいんだ」


「そうか?」

「ああ、兄さんは『カード』については何も知らなかった。それに、疑問に思った事は自分で調べないと気が済まない人だからさ」


 兄さんは「自分の信じた物を信じる人」である。だから、俺がとやかく言おうが、関係ない。


「だから……まぁ、後は兄さんに任せるよ」

「……ふーん」


「……なんだよ」

「いや? 昨日と比べて幾分か表情が柔らかくなったなぁ……って」


「悪かったな、カチコチで」

「いやいや、瞬もだけどお兄さんも……だって」


 刹那はそう言っていたが、俺からすると「そうか?」と首をかしげたくなる。


 しかし、刹那はそんな俺を見ながら「そうだって」と言って笑い、俺たちは帰る準備のため、各々の部屋へと向かった。


「うーん」


 部屋についた俺は少し考えたが、結局分からず、とりあえず荷物をまとめた。


 ――そして、俺と刹那は雪が少し降っている中、宗玄さんの爆走車に乗り、いつも母親の運転に慣れている刹那ですらギャーギャー騒ぎながら、俺たちは駅へと向かったのだった。

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