第7話


「見覚え……ある?」

「いや……」


「そっか。いや、刹那くん曰く昨日はなかったのに、今日来たらその時点でなぜかあった……って言っていたからさ」

「…………」


 そう言われても、俺に心当たりはない。


 俺があの時対峙していたのは『烏座』で、その足元には『コップ座』があったというだけで『乙女座』は何も関係がない。


「まぁ二人の話を聞いている限りでは、瞬の気絶している時間が長かった原因が、この『乙女座』なんじゃないかとは思っているんだけど」

「……そうですか」


 確かに、結構長い時間『過去』を見せられていたような気にはなっていたが、それでも「たった一日か……」と、思ったのは心のスミに置いておこう。


「うん。瞬が目を冷まさなかったのは、打ち所が悪ければ……とも考えられるたんだけどね? でも咄嗟とは言え、ちゃんと頭を打たないように腕を後ろに引いていたから、多少はクッションになったんじゃないかなって思ってさ」

「…………」


 兄さんが意外に俺を見てくれていた事に正直驚いた……が、なぜその場にいなかったはずの兄さんがそんな状況が分かったのだろうか。


 俺は一瞬、特に気にせず無言で聞いていた。


 しかし、すぐに「まぁ、そのクッションとして咄嗟に引いた腕……というか、手にヒビが入っているのが何となく分かったからなんだけど……」と付け足した。


「…………」


 こういう時、不思議なモノで「多少の怪我は仕方ない」とは思う。ただ、そういう時は大体『かすり傷』の様な『軽傷』を指す事が多い。


 もちろん、起きてから自分の手が包帯でグルグル巻きにされているのは見えていた。見えてはいたが、まさか『ヒビが入っている』なんて思いもしない。


 だからまぁ、何が言いたいのかと言うと……。


「……痛い」


 兄さんに『ヒビが入っている』と言われた結果。今更になって、ものすごい痛みがこみ上げてきた……様な感じがしてならない。


 要するにあれだ。


 他の人に言われたり、自分でその怪我を見ない限りそこまで実感はわかないが、いざ実感がわいてしまうと、途端に痛みを感じてしまう……というヤツだ。


「まぁ、とりあえず。それらも含めてお医者さん呼んで話をしよう」

「……はい」


 さすがに、今までと同じ様な生活は出来そうにない。風呂に入るにしても、普通に歩くにしても気にしなければいけない事はたくさんありそうだ。


「それを聞いた後、二人も交えて話をしよう」

「え? さっきので話は終わりじゃ……」


「ははは。当初はそのつもりだったんだけど……そうも言っていられない『事情』が出来ちゃってね」

「…………」


 兄さんにしては珍しい。誤魔化すなら誤魔化すで、いつもならもっとおちゃらけた言い方をするはずだ。


 しかし、それも出来ないほどの『事情』があるのだろう。それこそ、刹那と龍紀の二人を交えないければいけないほどの――。

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